【column】ライフラインがストップする状況に備える

2023.12.20 | 防災・防犯・環境

「備えあれば憂いなし」と言いますが、こちらが備えているつもりでも思わぬ事態を引き起こすのが自然災害です。それでも、普段から災害時を想定して、できるかぎり備えておく心がけが大事。

災害時、各家庭に襲いかかるかもしれない深刻な問題が、水道、電気、ガスといったライフラインが停まってしまう事態。平常時から備えておくと、災害時のそうした危機的状況にも冷静に対処しやすくなります。日本防災士機構認定の防災士である古賀由布子さんに、備えのポイントを教えてもらいました。

[水道]お風呂の浴槽を貯水タンクに

まずは、水道が使えない状況に陥った場合について。
「生活に必要な水は、飲料水、生活に使う水すべてを含めて、一人につき一日3リットルとされています。また、災害時への備えとして、一週間分を備蓄しておくのが望ましいと言われます。ただし、都市部の場合、水道の復旧スピードや給水車による配水対応を考慮に入れると、3日分程度の備えでまかなえる、という見方もあります」と、古賀さんは言います。

目安となる数値をもとに考えると、4人家族の場合、一日あたり12リットルの水が必要。一週間分だと84リットルの水を備蓄しなければならない計算に。2リットル入りのペットボトルに換算すると42本分です。家庭での保管スペースを考えると、現実にはかなりハードルの高い話と言わざるをえません。

「そこで、水の備蓄に活用できるのが、お風呂の浴槽。浴槽であれば、保管スペースをあらためて用意する必要がないからです。もちろん、飲料水には使えませんが、その他の生活用水に利用できますし、家庭用の浴槽でも一般的には、200リットル前後の水を溜められます」

「浴槽に常時水を張っておくのは難しい」という意見も聞こえてきそうですが、古賀さんはこう答えます。

「たとえば水害が発生しそうな場合は、事前の情報によって準備できますから、その時点で浴槽に貯水すればよいのです。また、断水になったとしても、しばらくは蛇口から水が出ます」

飲料用水の備蓄についても、古賀さんは次のように教えてくれました。「2リットルのペットボトルで保管する方もいると思いますが、避難のために持ち出しをしなければならなくなった場合、重い物を運ぶのが困難な高齢者や子供には不向き。持ち運びには、500ミリリットルのペットボトルのほうが適しています。備蓄に2リットルのボトルを使ってもかまいませんが、避難の際に移し替えられるよう、500ミリ容器を複数用意しておくのをお勧めします」

[電気]電池で使える携帯しやすい物が便利

次に、電気が使えなくなった場合の備え。
「夜間や太陽光の届かない場所で過ごすのに必要な照明の役割を果たす懐中電灯。災害時の情報をいち早くキャッチする手段としての携帯ラジオ。最低限この2点は、日頃から用意しておきたいものです」


携帯ラジオと懐中電灯

災害用ライトとしては、手回し充電できるタイプが市販されています。ハンドルを回す動作で発電しながら半永久的に使えるため、長時間電気が使えないような状況では重宝しそうです。


(非常用ライト)*手動充電タイプ

「電気を使う器具には充電式のものもありますが、災害時の停電対策を考えると、電池で使えるタイプのほうが役立ちます。できれば、災害時用に電池の備蓄もしておきたいものです。家族の安否確認、緊急時の連絡、災害に関する情報取得に欠かせない携帯電話は充電式ですので、非常用にモバイルバッテリーを用意しておくとよいでしょう」

停電への備えとして、古賀さんはさらにこう語ります。
「さらに一歩、より安心な備えとして、持ち運びに便利な小型発電機、ソーラーパネルを使ったバッテリーなどがあれば、心強いです」
災害用電源は、キャンプ用品として売られている物もあるので、ホームセンターなどで手軽に求められますし、災害時だけでなくアウトドアレジャーでも活用できます。


小型発電機とソーラーパネルバッテリー

「近年は、災害時の電源にもなる電気自動車が普及しつつありますし、ガソリンで動く車でもシガーソケット(またはアクセサリーソケット)を通じて多少の充電はできます。ただし、いざという時の移動手段を失わないために、自動車からの電気供給はあくまでも緊急の場合だけに留めておいたほうがよいでしょう」

[ガス]カセットコンロを活用する

最後に、ガスが使えない状況への備えについて。
「災害時、煮炊きするのに大いに役立つのが、ガスボンベを装着して使うタイプのカセットコンロです。持ち運びに便利だからと、卓上IHクッキングヒーターを非常用に考えている方もいるかもしれませんが、ガスも電気も停まっている状態では使えません」

「また、カセットコンロは用意してあっても、いざという時に使えるガスボンベがなかった、という話を聞いたことがあります。『一日1本と計算してガスボンベの備蓄を』という意見もありますが、煮炊きしないですむ非常食はありますし、家庭の保管スペースを考えると、それほどの量を備蓄すべきなのか、とも私は思います。現実的に考えれば、普段使う用のストックにプラスして1本程度、余分に蓄えておけばよいのではないでしょうか」

取材ライターのつぶやき

毎日当たり前に使っている水道、電気、ガス。蛇口をひねれば、スイッチを押せば、いくらでも使えるので、そのありがたさに気づかないまま生活してきました。しかし、古賀さんのお話を伺って、ライフラインがない生活を強いられた生活を想像し、そんな状況が自分の身に起きたら、と考えて少々怖くなりました。まずは電池のストック確認から始めたいと思います!

今回のSpecialist 日本防災士機構認定防災士
古賀由布子(こが ゆうこ) さん

日本防災士機構認定防災士。
「Say!輪(セイリング)」代表。「人と人との輪を紡ぐ」というテーマのもと、学び合いの場づくりを目的として2012年に任意団体「Say!輪」を設立。現在の活動の中心は、『わかりやすく楽しい防災ワークショップ』。防災ワークショップでは、防災をきっかけに老若男女、多種多様な人々が相互理解を深める場を育むとともに、防災意識の啓発活動だけに留まらない、さまざまな地域課題解消のお手伝いにも取り組んでいます。


関連記事