「備えあれば憂いなし」と言いますが、こちらが備えているつもりでも思わぬ事態を引き起こすのが自然災害です。それでも、普段から災害時を想定して、できるかぎり備えておく心がけが大事。
マンションなどの集合住宅に住んでいる人が、「戸建て住宅にくらべて、大きくて造りが頑丈だし、住まいは高い位置にあるので、災害に強い」と考えるケースがあるようですが、集合住宅に災害の危険がないかというと、そんなことはありません。日本防災士機構認定の防災士である古賀由布子さんに、災害時における集合住宅の弱点を教えてもらいました。
集合住宅でも浸水被害は起きる
「うちはマンションの高層階だから、大雨の際によくある、戸建て住宅のような床上浸水は、心配しなくてすむ」と、安心している人がいるかもしれません。しかし、2階以上の集合住宅に住んでいても、まったく安心とは言いきれないのです。
たしかに、河川のはん濫が起きた場合、周辺の建物で浸水被害に遭いやすいのは、マンション住民より一軒家に住んでいるご家庭かもしれません。

しかし、2階以上の住まいに浸水被害が発生しないわけではないので、注意は必要です。集合住宅では、水道管のトラブルや、外装材の欠陥などから水漏れが起きる場合があります。
また、住人自身の不注意から浸水が引き起こされるケースもあると、古賀さんは言います。
「たとえば、窓を開け放した状態で外出してしまい、天候が急変して激しい雨が室内に降り込んで、床が水浸しになるトラブルが考えられます。また、ベランダに観葉植物を置くとか、家庭菜園をおこなっていると、落ち葉などが排水口に詰まって、結果的に室内の浸水を引き起こす場合があります」

そして、集合住宅が一軒家にくらべて厄介な点は、自分たちが住んでいる階や部屋には問題がなくても、他の階や部屋、共同で使う設備に生じたトラブルの影響を受けてしまうおそれがあることです。
地震などによって配管や給水設備に不具合が生じると、下のほうの階の住人にはまったく影響が出ていないのに、上のほうの階で水道が使えなくなるといった事態も起こり得ます。

地下浸水でライフラインが停まる
さらには、水害で住まい部分の浸水被害には遭わなくてすんだとしても、集合住宅の建物の一部が水に浸かって入居者に影響を及ぼすケースはあります。
「実際に起きた事例でいうと、マンションの地下駐車場が大雨の影響で冠水する被害がありました。マンションの地下には電気系統の設備などが置かれていることもあり、そうした設備が水浸しになって機能停止状態に陥ってしまうと、建物内のライフラインがストップする危険があります。すると、各家庭で停電が起きると同時に、エレベーターも停止、といった事態にもなりかねません」
戸建て住宅なら、自宅に起きる浸水の場合、住人はその状況をすぐに把握できますが、マンションの地下浸水となると、その上に住んでいる人のほとんどが、自分たちに起きている事態を理解するまでに時間がかかります。
しかも、いきなり停電に追い込まれるわけですから、何が起きているのかわからず混乱してしまうかもしれません。大雨に見舞われた際などには、そうした事態をある程度想定して行動につなげる必要があります。
災害時に孤立する可能性も
マンションなどの集合住宅にとっての災害時の弱点は、まだあります。
それは、地震や水害の場合、建物内に閉じ込められて外に出られない、いわゆる孤立状態に陥る危険をはらんでいる点です。
とくにマンションは、出入口が一か所で、住人はそこを通らなければならないというケースがよく見られます。そして、1階のエントランス部分が浸水あるいは地震の影響でドアが開かなくなってしまうと、大勢が建物の外へ出られない状況になります。非常階段があっても1階が浸水していれば、やはり外へ脱出できません。
エレベーターも故障してしまうと、さらに避難が難しくなります。

「災害への備えとしてできるのは、そういった事態を想定して避難経路の確認をしておくことと、停電や断水が起きた時に少なくとも数日間、乗り切るのに必要な物を蓄えておくことです。もちろん、災害に対する備えは、集合住宅だけでなく、一軒家のご家庭にも共通するものです」
取材ライターのつぶやき
「マンションだから安全」という漠然としたイメージは、自分のなかにもあったので、今回の取材もまた、「目からウロコ」でした。安心しきっていたせいで、いざという時にパニックになる、といった事態を招かないようにするためには、災害を想定した備えが何より重要。そんなふうに実感しました。
今回のSpecialist
日本防災士機構認定防災士
古賀由布子(こが ゆうこ) さん

日本防災士機構認定防災士。
「Say!輪(セイリング)」代表。「人と人との輪を紡ぐ」というテーマのもと、学び合いの場づくりを目的として2012年に任意団体「Say!輪」を設立。現在の活動の中心は、『わかりやすく楽しい防災ワークショップ』。防災ワークショップでは、防災をきっかけに老若男女、多種多様な人々が相互理解を深める場を育むとともに、防災意識の啓発活動だけに留まらない、さまざまな地域課題解消のお手伝いにも取り組んでいます。
webサイトhttps://sayring.wixsite.com/2012

