【column】災害時は足下を守れ!

2024.04.10 | 防災・防犯・環境

「備えあれば憂いなし」と言いますが、こちらが備えているつもりでも思わぬ事態を引き起こすのが自然災害です。それでも、普段から災害時を想定して、できるかぎり備えておく心がけが大事。

普段からの備えとして、ラジオや懐中電灯、ヘルメットなどを防災グッズとして用意してあるご家庭もあるかと思いますが、避難用の靴はそのなかに入っていますか? 地震や水害といった災害が起きた際、頭と同じくらい足下を守ることが重要とされています。日本防災士機構認定の防災士である古賀由布子さんに、足を守るためのポイントを教えてもらいました。

避難の際は家の中から靴を履く

災害時の避難に際して覚えておきたいのが、家の中から靴を履いて移動すること。
というのも、地震が起きた時に家の中のガラス製品が倒れたり落下したりして割れ、部屋の床や廊下に破片が散乱しているかもしれないからです。
水害で床上浸水した時も同じく、足を傷つけるような物が、泥水に紛れて家の中に流れ込んできているおそれもあります。

災害で避難が必要な場合は、一刻を争う場合も。そんな時に足をケガしてしまったら、逃げ遅れる事態にもなりかねません。だから、災害時には、頭と同じように、足下も守っておく必要があるのです。

「防災用の備品に、ぜひ避難用の靴を加えてください」と古賀さん。
「靴といえば、通常は玄関や、その近くの靴箱に置かれているものですが、災害時に居間や自分の居室から玄関までの距離がある場合は、普段よくいる部屋に避難用の靴を置いておくとよいでしょう。また、部屋から玄関までの距離がある場合は、部屋の窓のそばに靴を置いておくのも、ひとつの手。いち早い避難を迫られる状況では、玄関を目指さず、その窓から脱出するほうがより素早く避難できるからです」

「頭を守るヘルメットは防災用品として揃えてあっても、靴までは考えが及ばなかった」という人は、少なくないはず。避難用の靴を「非常時の備品」として用意しておくようお勧めします。

避難靴選びの三つのポイント

災害時に役立てるために用意しておきたい避難用の靴ですが、履き物ならば何でもよい、というわけではありません。次の3点を満たしていることが肝心です。

1 厚みのある靴底で、しかも滑りにくい
2 足先からかかとまで覆える
3 濡れても乾きやすい

まず一つめについて。尖った物などで足裏をケガしないように、ある程度厚みのある靴底が望ましいと言えます。また、避難時の転倒を防ぐために滑りにくい靴底であることも大事。
家の中で普段スリッパを履いている場合でも、底の厚みや滑りにくさの点で、靴に履き替えるほうがよいでしょう。

次に、足先からかかとまで覆えるタイプのものが望ましいのは、足下をできるだけケガから守るためです。サンダルのようにかかとが覆えないものは、ケガのリスクに加えて、急いでいる時に脱げやすいデメリットもあります。

そして三つめの、濡れても乾きやすいものである点についてですが、避難所などに滞在することになった時、濡れた状態から乾きにくい靴だと、履き心地がずっと不快であるうえ、湿気による靴内部のカビ発生から避難所の不衛生にもつながりかねません。

そうした条件に合うアイテムとしては、建設作業に従事する人向けの衣料販売店で売られている「ワークブーツ」や「安全靴」などがマッチします。
つま先に鉄板などが入っていて落下物からの衝撃を受けとめてくれるうえ、踏み抜き防止用の素材が靴底に使われており、比較的軽量で通気性もあるため、避難用の靴として適しています。

さらに、家庭の主婦としての観点から、古賀さんは次のような気づきを教えてくれました。
「家族が多いご家庭では、避難時の靴を人数分揃えるには予算面のハードルがあるかもしれません。リーズナブルな価格帯で求めやすいという点では、必要な機能がある代替品がよいかと。私がお勧めしたいのは、ガーデニング用品として売られているガーデンシューズ(下の画像の左側)。三つの条件を満たしていますし、ホームセンターなどで手軽に購入できるため、防災啓発活動を通じて知り合った方たちからも好評です」

「また、アウトドアの磯遊びや川遊びに使えるウォーターシューズ(下の画像の右側)も、災害時の移動に適しているかと。しっかりと足下を守ってくれますし、速乾性にも優れています」

ゴム長靴は避難に適しているか?

災害レベルの大雨で避難しなければならない状況において、雨天に着用するゴム長靴を履いて避難するのがよいと考える人がいるかもしれませんが、防災の観点から言えば、お勧めできません。

「長靴は素材的に水がしみ込みにくい反面、上部から水が靴の中へ入ってしまうと内部にたまりやすい欠点があります。水害で長靴の高さより高い位置まで冠水している道へ出てしまったら、水がめいっぱい入り込んだ結果、足下が想像以上に重くなって、歩くのがとても困難になります」

しかも、長靴はスニーカーのようにひもで縛って足に固定できないため、すぽっと脱げやすく、冠水している道路では転倒の危険が増します。
そのうえ、河川のはん濫などで水の流れに勢いがある場合には、転んだ途端に身体ごと一気に流されてしまうかもしれないため、大変危険です。
「乾きやすさの点からも、避難用の履き物としては不向きです。豪雨の際の移動では、とくに年配の方やお子さんは長靴を避けてください」

取材ライターのつぶやき

足を守りやすい形状だけでなく、水はけがよく乾きやすい靴を選ぶのがポイントだと、教えてくださった古賀さん。「避難所では、濡れたままの靴が乾かず、履き物がほしいと希望する方が、意外と多いそうです」という話もうかがいました。これまで「防災」と「靴」は結びつけて考えていませんでしたが、災害時の避難に適した靴を知ることができてよかったです。

今回のSpecialist 日本防災士機構認定防災士
古賀由布子(こが ゆうこ) さん

日本防災士機構認定防災士。
「Say!輪(セイリング)」代表。「人と人との輪を紡ぐ」というテーマのもと、学び合いの場づくりを目的として2012年に任意団体「Say!輪」を設立。現在の活動の中心は、『わかりやすく楽しい防災ワークショップ』。防災ワークショップでは、防災をきっかけに老若男女、多種多様な人々が相互理解を深める場を育むとともに、防災意識の啓発活動だけに留まらない、さまざまな地域課題解消のお手伝いにも取り組んでいます。


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