「備えあれば憂いなし」と言いますが、こちらが備えているつもりでも思わぬ事態を引き起こすのが自然災害です。それでも、普段から災害時を想定して、できるかぎり備えておく心がけが大事。
日頃からの備えとして用意しておくべき物はいろいろありますが、予算面や保管スペースを考えると、「防災グッズを完璧にそろえるのは難しい」という声も。それならば、ご家庭でいつも使っている日用品を緊急時に応用できないものか… 日本防災士機構認定の防災士である古賀由布子さんに、日用品を活用する工夫を教えてもらいました。
ポリ袋でご飯を炊く
もしも自然災害が発生した場合、被災した人々は避難所で過ごすばかりなく、自宅で避難生活をおこなわなければならないケースもあります。電気、ガス、水道の供給が一時的にストップしている状況では、いつものように炊飯器は使えませんし、電子レンジで温かい食事を作るのもあきらめなくてはなりません。
そんな時のために知っておくと役に立つのが、家庭にあるポリ袋を使った湯せん調理。カセットコンロと鍋でお湯を沸かし、ポリ袋に食材を入れれば、炊飯や煮物、味噌汁、パスタを茹でるといった調理ができます。
わずかな道具で調理できるうえ、湯せんに使った水は何度も使えるため、災害時には貴重となる水の節約になります。鍋自体も汚れませんし、お皿に袋を被せて中身を食べれば、洗い物を出さずに済みます。
さらに、できあがった料理を温め直す際にも湯せんは役立ちます。

「ただし、ポリ袋の素材によっては、加熱調理に向かないものもあるので、注意が必要です」と古賀さん。
「ポリ袋のなかでも、半透明の『高密度ポリエチレン』製のものを使うようにしてください。透明のポリ袋や、スーパーやコンビニにある白いレジ袋、食品保存に用いるチャック付き袋は、熱で袋が溶けてしまう可能性があります。日用品として求める際に、『高密度ポリエチレン』または『耐熱温度110℃』の表示のあるものか、湯せん調理が可能であると表示されているものを選ぶとよいでしょう」
さらに鍋にお皿を敷いてから水を張ると、鍋底の強い熱で袋に穴が開くのを防げます。
「ポリ袋の湯せんを用いた調理レシピは、さまざまなオンライン記事、書籍でくわしく紹介されていますので、参考にしてください」
ラップはいろいろ使える万能代用品
災害時に貴重な水をムダにしない手段としては、キッチン用品の定番であるラップを活用するのも効果的です。
料理を直接お皿に盛るのではなく、お皿をラップで包んでその上に盛ればお皿は洗う必要がなくなりますし、食べ残しもラップでくるめばゴミが出ません。

「避難時に役立つラップの活用法はほかにもあります。ラップを丸めたものは、皿洗い用のスポンジ代わりに。
また、ケガをした時の応急処置として患部に当てた布などがずれないようにするのに使えます。腕や足をラップでぐるぐる巻きにすると包帯の役割を果たしてくれます。この場合、患部が濡れないようにする効果も。
さらに、骨折した時には添え木を固定するのにも、ラップのぐるぐる巻きは使えます。冬場に身体に巻けば、防寒具にもなります」
新聞紙をトイレとスリッパに
災害時の避難における大きな課題として挙げられるのが、トイレの問題。断水すれば、自宅の水洗式トイレは使えなくなります。避難所の仮設トイレも、収容人数に対して数が足りていないという状況もよくあります。
そこで、急場しのぎの手段となるのが、ポリ袋と新聞紙を使った簡易トイレ。

1 まず、トイレの便座を上げ、ポリ袋を開いて便器を覆う。
2 その上に2枚目のポリ袋を開いて入れ、便座ではさんで固定。
3 四つ折り程度にたたんだ新聞紙をくしゃくしゃにしてから中へ入れる。
4 さらに、短冊状に割いた新聞紙をその上に敷き詰める。
5 用を足したら、上に敷いたポリ袋の口を縛って取り出す。
「新聞紙は、吸水性と脱臭力があるため、こうした簡易トイレに用いるのに適しています。ポリ袋を二重にして便器に敷くのは、内側のポリ袋が便器にたまった水で濡れるのを防ぐためです」
おむつやペットシーツも、吸水性があるので新聞紙の代用品となります。
また、便器のない場所では、段ボールやポリバケツを使って、同じように簡易トイレを作ることができます。
水で流せない簡易トイレなので、どうしても臭いが気になるという人もいるでしょう。そういう場合は、一般的なポリ袋でなく、おむつやペットのふんの処理用として市販されている「消臭袋」を備えておくのがお勧め。消臭剤を配合してあり、袋が臭いを吸着するしくみです。
また、用を足した袋の口を縛る前に、家庭用の漂白剤を数滴ふりかけると消臭効果が期待できます。
そして、もうひとつ。災害時の新聞紙の活用法として知っておくとよいのが、「新聞紙スリッパ」です。

「あくまでも代用品ですが、被災した家屋での室内移動の際に足を守り、避難所生活などで泥や粉塵の汚れを防ぐのに役立ちます。新聞紙があれば手軽にできるので、私も防災ワークショップで参加者に教えています。『新聞紙』『スリッパ』でキーワード検索すれば、作り方の手順を紹介している動画が複数見つかりますよ」
取材ライターのつぶやき
今回の取材での収穫は、「防災用品は、買いそろえるばかりではない」ということ。日常生活で使っているものをうまく利用すれば、もしもの時に避難生活を助けてくれる。これは、とてもありがたい。「普段の生活のなかに防災のアイデア、ヒントはたくさんあるはず」という古賀さんの言葉が印象的でした。困った時に大切なのは、前向きに工夫する姿勢なのですね。
今回のSpecialist
日本防災士機構認定防災士
古賀由布子(こが ゆうこ) さん

日本防災士機構認定防災士。
「Say!輪(セイリング)」代表。「人と人との輪を紡ぐ」というテーマのもと、学び合いの場づくりを目的として2012年に任意団体「Say!輪」を設立。現在の活動の中心は、『わかりやすく楽しい防災ワークショップ』。防災ワークショップでは、防災をきっかけに老若男女、多種多様な人々が相互理解を深める場を育むとともに、防災意識の啓発活動だけに留まらない、さまざまな地域課題解消のお手伝いにも取り組んでいます。
webサイトhttps://sayring.wixsite.com/2012

