【column】建築士に聞く! マンションの防音|構造と仕組み編

2024.01.31 | 防災・防犯・環境

同じ建物に、さまざまな人が集まって住んでいるマンション。住み心地を良くするために設計段階で防音対策がされていますが、一戸建てと比べると音が伝わりやすい環境です。時には、騒音によるトラブルが起きてしまうことも。そこで、分譲マンションや住宅、オフィス、ホテルなど多彩な建物の設計を手掛ける一級建築士の塩釜直人さんにマンションの防音について教えてもらいました。
第2回目は、「構造と仕組み編」です♪

マンションの音環境とは

壁や柱、梁といった部材で作られる建物の構造は、建築材料によって大きく3つに分類できます。

・鉄筋コンクリート造(RC造)
・鉄骨造(S造)
・木造

鉄筋コンクリート造のマンションは、防音面から見てどのような特徴があるのでしょうか。

塩釜さん「木造や鉄骨造に比べると、鉄筋コンクリート造は音を伝えにくいという特徴があります。一方で、第1回でお話したように、コンクリートの壁や床は声などの空気音は伝えにくいのですが、足音や物がぶつかる音など固体音のもとになる振動は伝えやすい材料です」

鉄筋コンクリート造のマンションは気密性が高いといわれていますが、2003年の建築基準法改正ではすべての建築物に24時間換気システムを設置することを義務化。採光や換気のために設けられた窓や換気口のほか、内装の壁、床材なども音の伝わりやすさに影響しています。

マンションの設計段階でどんな防音対策がされているのか、代表的なものをいくつか教えてもらいました。

建物の位置や間取りで音をコントロール

塩釜さん「外部からの音に対しては、サッシやガラスなどの建具に遮音性が高いものを採用して、室内で聞こえる騒音を一定のレベルまで下げています」
音は光と同じように真っすぐに進む性質があり、障害物にぶつかると回り込んだり反響したりします。つまり、音源と建物の間に遮るものがないと、遠くの音もよく聞こえてくるため、外部の状況で開口部の向きを変えることもあるそうです。

塩釜さん「住まいの中で、特に音が出やすい部屋は決まっています。例えば、家族が集まって食事をしたりくつろいだりするLDKと浴室が代表的なものです。個室は睡眠をとったり、一人で静かに過ごしたりすることが多いですよね。マンションの設計では、同じプランの住戸が上下階になることが多いので、寝室の上にLDKがあってうるさいということは少ないはずです。上下階で間取りが違う場合には、音の出やすい部屋に十分な遮音を行うようにしています」

リフォームなどで間取りを変更する際には、上下階の寝室やLDKとの位置関係も考える必要がありそうですね。

マンションの壁の防音は?

マンションの壁は、大きく2つに分けられます。
周辺住戸との間にある壁や床は戸境(こざかい)と呼ばれています。界壁(かいへき)、界床(かいしょう)ということもあります。
住戸の中で各部屋を隔てる壁は、間仕切り壁と呼ばれます。

塩釜さん「戸境壁はコンクリートで作られる場合が多く、湿式壁とも呼ばれています。鉄筋コンクリート壁は遮音性が高いので、鉄筋コンクリート壁の表面にクロスを貼る仕上げが最も防音性に優れているといえます」

鉄筋コンクリートの壁に石膏ボード(プラスターボード)を貼り、ボードの上にクロスを貼って二重壁にする場合もありますが、コンクリート壁と石膏ボードの間にすき間ができ、壁は厚くなったのに隣の部屋に音が伝わってしまうという現象が起きます。

塩釜さん「隣戸との防音について重要なのは、戸境壁に使われている鉄筋コンクリートの厚みです。30年ほど前は戸境壁の厚さは15cmほどでしたが、プライバシーが重視されるようになった現在では20cm程度が標準的です」

戸境壁は軽量な石膏ボードで作られる場合もありますが、吸音材料などを組み合わせることによって音を伝えにくい仕様になっている場合もあるそうです。

戸境床は二重床? 直貼り床?

戸境床は、通常直床工法と二重床工法のいずれかでできていて、現在は二重床工法を採用するマンションが多くなっています。

直床工法は、コンクリートスラブに直接フローリング材などの仕上げ材を貼ったものです。

塩釜さん「二重床は、コンクリート床(スラブ)に束を立て、二重床をつくってフローリングなどの仕上げ材を貼る工法です。配管や配線などがしやすいメリットがありますが、床への衝撃音が床下の空気を圧迫するなどの原因から、直床工法よりも音が伝導される傾向があります。そのため、二重床と壁の間に空気を抜く隙間を設け、LDKなど人が集まる場所の床は防振根太を採用して振動を抑えるといった対策を行っているマンションもあります」

完全に静かなマンションは建てられる?

「静かな環境で暮らしたい」「赤ちゃんがいるので、周囲の人に迷惑をかけたくない」そんな思いから、防音性の高いマンションを求める人は増えています。では、周囲の音が全く聞こえないマンションはできるのでしょうか。

塩釜さん「どのマンションも、周囲の音が気にならないように考慮されて設計されていると思いますが、音が全く聞こえないマンションというのは現実的にはないと思います。完全に音を遮断した状態というのは、レコーディングスタジオのようなイメージで、自分の声も周囲の壁に吸収されて全く響かない場所です」

マンションの防音は、音をどれだけ低減させるかで考えられているため、想定よりも大きな音が発生すれば、ある程度聞こえてしまうそう。
「いつもは聞こえない音が聞こえる場合、壁や床からではなく通風孔や窓を通して外の音が入ってきている場合もあります」と塩釜さん。前面歩道の話し声が上階まで聞こえるケースもあるそうです。
異なる生活スタイルの所帯が集まっているマンションでは、お互いの音マナーも大切にしたいものですね。

取材ライターのつぶやき

赤ちゃんを育てていた頃には全く問題がなかったのに、反抗期でダダをこねるようになった途端、下階から生活音について注意された苦い経験があります。泣き声は隣戸に聞こえなくても、おもちゃを床に投げる音は聞こえてしまったのだなあと改めて当時を思い出しました。設計や施工でさまざまな防音の工夫がされていますが、日照や生活動線などさまざまな要素と両立させなければならないのが難しいポイントだと感じました。すぐ近くに人が住んでいることを、改めて意識しなくてはなりませんね。

今回のSpecialist 塩釜 直人(しおがまなおと) さん

「建築を通して社会貢献」をモットーに、マンションや住宅、オフィス、公共建築などを手がける。一級建築士事務所・株式会社スズキ設計 所長。


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