同じ建物に、さまざまな人が集まって住んでいるマンション。住み心地を良くするために設計段階で防音対策がされていますが、一戸建てと比べると音が伝わりやすい環境です。時には、騒音によるトラブルが起きてしまうことも。そこで、分譲マンションや住宅、オフィス、ホテルなど多彩な建物の設計を手掛ける一級建築士の塩釜直人さんにマンションの防音について教えてもらいました。
第3回目は、集合住宅で暮らす上で気をつけたい「マンションの音マナー」です♪
身近なところで発生する生活騒音

食事や掃除、入浴、会話など、毎日の暮らしの中で発生する音。特に住宅や住戸まわりで発生する音は、生活騒音と呼ばれています。
「生活騒音の中には生活していく上で避けられない音もあります。感じ方は、周囲の人との関係や受け取る側の心情、時間帯などさまざまなものに影響され、人それぞれです。自分にとっては楽しく快適な音でも、他の人にとっては不快と受け止められることもあります」

上のグラフは生活騒音の発生源内訳ですが、電気機器や足音、ペットなど生活に密着した音が、他の人にとっては日常的に繰り返される騒音と受け止められていることがわかります。マンションでは、特に床や壁に直接ぶつかる固体音が問題になることが多いもの。日頃の生活で騒音防止の配慮をしながら、近隣とのコミュニケーションを築いておくことが大切ですね。
家電から発生する音

家電から発生する音が騒音になっていることがあります。
洗濯機や冷蔵庫は低騒音のものを選び、できるだけ音や振動が伝わらない置き方をすることが大切です。特に、洗濯機や洗濯乾燥機のドラムが回転する際に衣類が偏っていると、ガタガタとした揺れが大きくなって、床や壁に振動が伝わり、周辺の住戸に伝わることがあります。取扱い説明書の設置方法を確認して、がたつかないように注意しましょう。

また、掃除機を使う時に、部屋の隅まできれいにしようとして床や壁にノズルをぶつけてしまうことがあります。時間帯や力加減によっては、周囲の住戸まで衝撃音が聞こえてしまうことがあるようです。
「マンションには、夜間や早朝に働く人、子育てや介護をしている人、お年寄りなどさまざま人が住んでいます。静音タイプの家電を使っていても、周囲が静かで暗騒音の少ない時間帯にはかえって気になることもあるようです」と塩釜さん。
住宅設備、構造から発生する音
マンションの壁や窓、床にはさまざまな防音対策がされていますが、使い方によっては音が気になることがあります。
●ドアや窓、引き出しの開閉音
乱暴に開け閉めすると、壁に振動が伝わって周囲に聞こえることがあります。扉や引き出しを開閉するときには静かにゆっくりと閉めるように心がけましょう。また、ドアクローザーや戸棚用の緩衝材、ダンパー付きの引き出しで開閉スピードを調整したり、衝撃を緩めたりする方法もあります。

●入浴時の音
ユニットバスはコンクリートの構造体に乗せる形で作られているので、シャワーの音や排水音のほか、椅子を引きずる音や洗面器を置く音などが響く場合があります。入浴時間帯に注意し、柔らかい素材のマットを引くのがおすすめです。

そのほか、ダイニングなどで椅子を移動する音も周囲に響く場合があります。
楽器やスポーツなど、趣味に関する音

塩釜さん「ピアノや打楽器の音は床や壁に伝わるため、防音室などの設備が整っていない状態では周辺住戸に聞こえていると思います。設置場所を工夫し、演奏音を小さくし、防音パネルや防振ゴムをつけ、厚手のカーペットを敷くなど、本格的な防音対策をした上で、周囲に配慮して演奏した方がいいでしょう」
健康づくりやストレス解消のため、ヨガや踏み台昇降のような運動をする人も増えています。
「サッシを閉め、音楽のボリュームを絞り、厚手のマットを敷いて足音が響かないような工夫をしても、下の住戸が静かな場合は聞こえている場合があります。できるだけ音を立てないようにして、時間帯に配慮した方がいいと思います」
足音やペットの鳴き声にも注意を

元気いっぱいの子どもたちの足音や、家族や友人との楽しい会話、ペットの鳴き声も騒音になる場合があります。
塩釜さん「一緒に住んでいると意識しにくいものですが、足音が階下に響いたり、静かな時間帯のペットの鳴き声が聞こえたりすることがあります。生活の仕方や行動に気をつけて、マンションの環境を守る心配りが必要になります」
●人の足音
足音は床に衝撃音として伝わり、コンクリートを通して下階に響きます。「子どもは体重が軽いので足音が響かないイメージもありますが、部屋を走り回ったり、かかとから着地させるような歩き方をしたりするので、意外と大きく聞こえるようです」と塩釜さん。スリッパを履いたり、マットを敷いたり、音が響かないような柔らかい歩き方をすることで、足音は軽減するそうです。
●ペット

ペットが高い場所からジャンプして床に着地する音や鳴き声も、騒音になっている場合があります。ゲージなどを使って飼育する場所に気をつけ、ラグやカーペットで足音を響かせないようにしたいものです。散歩や運動がどれくらい必要なのか、事前に確かめてから飼育する配慮も必要です。
●話し声
部屋の壁越しには聞こえない音が、窓の外から聞こえることも。
塩釜さん「基本的なことですが、大勢が集まる時には時間帯を考えて、音楽や話し声の大きさに配慮し、サッシを閉めて外に音が漏れないようにすることが大切です。ベランダをリビングの延長のように使う場合も、話し声が周囲に聞こえている場合があるので注意しましょう」
もし騒音で困ったら

家族で長く住み続けるマンション。もし周辺住戸からの音に悩まされることがあったら、どうすればいいのでしょうか。
塩釜さん「まずは状況を整理して、適切に対応する必要があります。どの時間帯にどの部屋でどんな音がするか整理すると、誰かに相談する際にも情報を伝えやすくなります。その上で、当事者間かマンションの管理人に相談する方がいいと思います」
生活する上で発生する音を規制する法律はありませんが、市町村によっては条例で配慮を定めている場合もあります。騒音が改善されない場合に、民事訴訟が起こされた場合があるそうです。最後に、設計者としての思いを聞いてみました。
塩釜さん「マンションは縦横に伸びた長屋のようなものだと考えています。ライフスタイルの多様化によって、さまざまな人が集まって暮らす場にもなっています。集合住宅ならではの近所同士のコミュニティーや、家族の成長による間取りの変化などを楽しみながら、おおらかに住み続けてほしいと思っています」
取材ライターのつぶやき
居住しているマンションの掲示板に「深夜の音楽や話し声に注意してください」「子どもの声に注意してください」という貼り紙がされていることがあります。私自身は気にならないのですが、昼間に静かな部屋にいると、電話の呼び出し音や足音がかすかに聞こえることもあります。騒音は、大勢が近くに集まって住んでいるからこそ起きるともいえますが、まだ小さい子どもがいる立場としては、自分の家から騒音を出さないようにヒヤヒヤする日々。繰り返し行動を注意することで、マンションでの音マナーを身につけさせたいと思います。
今回のSpecialist 塩釜 直人(しおがまなおと) さん

「建築を通して社会貢献」をモットーに、マンションや住宅、オフィス、公共建築などを手がける。一級建築士事務所・株式会社スズキ設計 所長。
株式会社スズキ設計ホームページhttp://www.suzuki-arch.co.jp/

