【column】防犯その5:集合住宅の防犯対策

2024.07.31 | 防災・防犯・環境

生活者にとって怖いものの一つは、いわゆる「空き巣」などと呼ばれる住宅侵入盗。家の中にある大事な財産を奪われてしまい、時には家主や家族が危険な目に遭うおそれも。招かざる相手の侵入をできるだけ防ぎ、盗難被害から自分たちの身と財産を守るには、いったいどうすればよいのでしょうか。

これまでの回では、おもに戸建て住宅をイメージした防犯対策を紹介してきました。もちろん集合住宅に住む人にも共通する内容を中心に取り上げてきましたが、今回は、防犯の専門家である藤滿弘さんに、アパートやマンションなどの集合住宅向けの防犯対策について教えてもらいました。

中高層階でも空き巣被害のリスクはある

複数の世帯が共同で生活する集合住宅。見知らぬ人が出入りしていても怪しまれにくい環境でもあるため、防犯対策は重要です。

「私が所属する福岡県防犯設備士協会では、集合住宅における住宅侵入犯罪の予防を目的として、『室内に侵入しにくい設備の設置』『万が一侵入された場合に屋外に知らせる警報装置の設置』などの基準項目を策定しました。そして、安心して生活できる住環境基準を満たした集合住宅を『セキュリティ・マンション・アパート』として認定する制度を構築しています」

今回は、そうした取り組みのなかで基準となっている、集合住宅で安心して生活するためのポイントを教えてもらいました。

「当協会が県警と連携しておこなった福岡県警察犯罪予防研究会の調べでは、集合住宅の侵入盗被害は、中高層住宅の上層階でも起きており、低層階にくらべて数は少ないものの、10階以上でも玄関からの侵入による被害を中心に発生していることが判明しています。高層階に住んでいる場合でも、住宅侵入犯罪に巻き込まれるおそれは、けっしてなくならないということです」

集合住宅の住人が抱いてしまう「うちは1階じゃないから安心」「比較的高い階だから大丈夫」という思い込みは、ある日突然、覆されるかもしれません。油断して玄関や窓を開けっ放しのまま、または鍵をかけないまま過ごしてしていると侵入盗に狙われるのは、住んでいる階数と関係がない、と心得ましょう。

ベランダの窓に対策を

「住宅侵入犯罪の侵入口となりやすいのは窓ですが、戸建て住宅だけでもなく集合住宅でも同じことがいえます。警察庁平成25年犯罪情勢資料によると、4階以上の集合住宅のケースでは、侵入窃盗の手口で『無締まり』への侵入に次いで多いのが、『ガラス窓破り』でした。
集合住宅の場合、無締まりの家へ侵入した者がベランダから隣の家へ移って、さらに犯行を重ねることがあります。その際に侵入口となるのがベランダの窓です」

ベランダ窓の防犯性強化対策として有効なのが、「防犯その4」で紹介した「窓用補助錠」と「窓ガラスアラーム」です。


▲窓用補助錠


▲窓ガラスアラーム

とくに「窓ガラスアラーム」は、ガラスが衝撃を受けると、85デシベル以上(「直近で聞こえる救急車のサイレン」や「パチンコ店内の音」がだいたい80デシベル)の警報音を発します。
集合住宅の場合、被害宅が留守であっても、隣室の人などがそれを聞きつけて事態に気づく可能性が大きいので、警報音はより効果的といえます。

「集合住宅では、共用通路側に窓があることも。共用通路は見知らぬ人がいても疑われないので、住宅侵入犯に狙われやすいといえます。外からの侵入を防ぐ面格子が取り付けられていない場合は、設置をお勧めします。バスルームやトイレの換気用の窓は、それほど大きくないものもありますが、窓の一辺が25センチ程度でも侵入される場合があるので、防犯対策は必要です」

共用出入口と通路、駐車場・駐輪場を明るく

そして、犯罪をもくろむ者を建物に近づけない対策の大切さを、藤滿さんは訴えます。ポイントとなるのが、心理的に相手に「仕事がしづらい」と思わせるための「明るさ」。

「とくに夜間、暗がりは不審者が潜む場所になりがちです。そこで、次の場所の明るさの確保と見通しが重要になります」

〈共用出入口〉
・玄関内は50ルクス以上の明るさが望ましい(50ルクス=10メートル先の人の顔・行動が明確に識別できる程度以上の照度)
・玄関外は20ルクス以上の明るさが望ましい(20ルクス=10メートル先の人の顔・行動が識別できる程度以上の照度)

〈共用通路(階段を含む)〉
・屋内は20ルクス以上の明るさが望ましい
・屋外は3ルクス以上の明るさが望ましい(3ルクス=4メートル先の歩行者の顔の向きや挙動姿勢等がわかる照度)

〈エレベーターホール〉
・玄関階は50ルクス以上の明るさが望ましい
・その他は20ルクス以上の明るさが望ましい

〈駐車場・駐輪場〉
・3ルクス以上の明るさが望ましい

「また、戸建て住宅と同じく、テレビモニター付きインターホン、音や光で知らせる警報器などの設置も合わせると、より防犯効果が高まります」

集合住宅の場合、一世帯の住人だけではできることが限られる場合もありますが、「通路の見通しをよくするために、外に大きな物を置かない」といった工夫はそれぞれができるはず。安心・安全な暮らしのために環境改善を心がけましょう。

○防犯性の高いアパートのイメージ

○防犯性の高いマンションのイメージ

取材ライターのつぶやき

何かあったら隣接する世帯、時には全体に迷惑がかかる一方で、何かあった時に助け合えるのが集合住宅。個別世帯のみの努力では解決しにくい防犯の課題も協力しながら取り組んだ結果として、思わぬ成果が得られることも。私自身、「防犯」に対して、人並み程度には関心をもっているつもりでしたが、取材を通じて、「意識が低かった」と反省させられた点が少なからずあり、とても勉強になりました。

今回のSpecialist 公益社団法人日本防犯設備士協会認定 総合防犯設備士
藤滿 弘(ふじみつ ひろむ) さん

特定非営利活動法人福岡県防犯設備士協会事務局長。
総合防犯設備士の資格のほか、福岡県警察と特定非営利活動法人福岡県防犯設備士協会が委託する「防犯設備アドバイザー」の資格を保有。「安全・安心なまちづくり」を目指し、講演、テレビ出演、防犯診断、防犯設備の設置指導等を通じて、生活者の防犯意識向上のための活動をおこなっている。


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