「備えあれば憂いなし」と言いますが、こちらが備えているつもりでも思わぬ事態を引き起こすのが自然災害です。それでも、普段から災害時を想定して、できるかぎり備えておく心がけが大事。
日頃からの備えとして用意しておくべき物や、知っておくべき情報などを日本防災士機構認定の防災士である古賀由布子さんに教えてもらいました。
まずは、ハザードマップで生活圏を確認

日頃からの備えとして、まず目を通しておきたいのが、自分自身の生活圏が載っている「ハザードマップ」です。ハザードマップとは、自然災害に伴う河川のはん濫や堤防の決壊、土砂災害、津波による浸水といった被害を、地形などをもとに予測して、被害範囲を地域ごとの地図に落とし込んだもの。
また、被災想定区域のほかに、地域ごとの避難場所や避難経路についても知ることができます。

ハザードマップで自分の生活圏を確認して避難所や避難経路を把握し、家族で情報を共有しておくと、いざという時に落ち着いて行動するのに役立ちます。
ライフラインがストップする状況に備える

災害時、各家庭に襲いかかるかもしれない深刻な問題が、水道、電気、ガスといったライフラインが停まってしまう事態。平常時から備えておくと、災害時のそうした危機的状況にも冷静に対処しやすくなります。
[水道]お風呂の浴槽を貯水タンクに

生活に必要な水は、飲料水、生活に使う水すべてを含めて、一人につき一日3リットルとされています。また、災害時への備えとして、一週間分を備蓄しておくのが望ましいと言われます。
目安となる数値をもとに考えると、4人家族の場合、一日あたり12リットルの水が必要。一週間分だと84リットルの水を備蓄しなければならない計算に。2リットル入りのペットボトルに換算すると42本分です。家庭での保管スペースを考えると、現実にはかなりハードルの高い話と言わざるをえません。
そこで、水の備蓄に活用できるのが、お風呂の浴槽。浴槽であれば、保管スペースをあらためて用意する必要がないからです。もちろん、飲料水には使えませんが、その他の生活用水に利用できますし、家庭用の浴槽でも一般的には、200リットル前後の水を溜められます。
[電気]電池で使える携帯しやすい物が便利

夜間や太陽光の届かない場所で過ごすのに必要な照明の役割を果たす懐中電灯。災害時の情報をいち早くキャッチする手段としての携帯ラジオ。最低限この2点は、日頃から用意しておきたいものです。
災害用ライトとしては、手回し充電できるタイプが市販されています。ハンドルを回す動作で発電しながら半永久的に使えるため、長時間電気が使えないような状況では重宝しそうです。

さらに一歩、より安心な備えとして、持ち運びに便利な小型発電機、ソーラーパネルを使ったバッテリーなどがあれば、心強いですね。
[ガス]カセットコンロを活用する

災害時、煮炊きするのに大いに役立つのが、ガスボンベを装着して使うタイプのカセットコンロです。持ち運びに便利だからと、卓上IHクッキングヒーターを非常用に考えている方もいるかもしれませんが、ガスも電気も停まっている状態では使えません。
また、カセットコンロは用意してあっても、いざという時に使えるガスボンベがなかった、という話を聞いたことがあります。普段使う用のストックにプラスして1本程度、余分に蓄えておけばよいです。
家族と別の場所にいる時に災害が起きたら

災害は思わぬ時にやってくるもの。自宅にいる時に起きるとはかぎらないし、家族と一緒の時ともかぎりません。自宅、会社、学校など、それぞれが別の場所にいる時に災害に遭遇したら、家族といち早く再会するには、どうすればよいのでしょう。
事前準備のポイントは3つ。
①家族のスケジュールを把握する
②集合場所を確認しておく
③連絡方法を決めておく
①家族のスケジュールを把握する

自然災害のなかでも、大雨や台風の場合はある程度事前に時期や場所の情報を得ることができますから、災害に遭いそうな日のスケジュールを家族間で共有しておくと、いざという時に別々の場所にいても相手の居場所を把握しやすくなります。
お子さんが児童の場合は、ハザードマップを囲んで、災害時の避難経路を一緒に確認しておくのも、いざという時のためにやっておいたほうがよいかもしれません。
②集合場所を確認しておく

家族と別の場所で災害が起きる可能性を考えて、事前に集合場所を確認しておくと、お互いの安否をいち早く確かめるのに役立ちます。
災害時の避難場所には、「指定緊急避難場所」と「指定避難所」があります。
「指定緊急避難場所」は、災害による危険から命を守るために緊急避難する場所のことで、小中学校のグラウンドや体育館、校舎の2階以上の場所などが市区町村などによって指定されています。
そして、「指定避難所」は、災害で自宅へ戻れなくなった人たちが一時的に滞在する場所です。小中学校の体育館、公民館などが指定避難所となり、管轄の行政機関が安全を確認した後に開設されます。
指定避難所は、支援物資や情報などが集まる場となり、場合によっては給水拠点、救難所も設置されます。
③連絡方法を決めておく

NTT東日本・西日本では『災害用伝言ダイヤル(171)』として、声の伝言板サービスを提供しています。震度6弱以上の地震発生時には、その事実が伝わってから30分ほどで提供が開始され、震度5強以下の地震やその他の災害発生時は、電話の通信状況に応じて提供が判断されます。
災害時の携帯電話のつながりにくさにくらべれば、LINEはつながるほうだという声を聞きますが、タイムラグが発生するという意見も。
アナログなやり方ですが、家の玄関などにメモや付せんを貼って家族にメッセージを伝えるのも、緊急時には効果があるようです。ただし、個人情報が他人に漏れたり、留守宅であると知られたりと、防犯上の課題もあるので、書き記す内容とメッセージを貼る場所などへの配慮が必要になります。
災害時は足下を守れ!

普段からの備えとして、ラジオや懐中電灯、ヘルメットなどを防災グッズとして用意してあるご家庭もあるかと思いますが、避難用の靴はそのなかに入っていますか? 地震や水害といった災害が起きた際、頭と同じくらい足下を守ることが重要とされています。
災害時の避難に際して覚えておきたいのが、家の中から靴を履いて移動すること。
というのも、地震が起きた時に家の中のガラス製品が倒れたり落下したりして割れ、部屋の床や廊下に破片が散乱しているかもしれないからです。
水害で床上浸水した時も同じく、足を傷つけるような物が、泥水に紛れて家の中に流れ込んできているおそれもあります。

災害で避難が必要な場合は、一刻を争う場合も。そんな時に足をケガしてしまったら、逃げ遅れる事態にもなりかねません。だから、災害時には、頭と同じように、足下も守っておく必要があるのです。
「頭を守るヘルメットは防災用品として揃えてあっても、靴までは考えが及ばなかった」という人は、少なくないはず。避難用の靴を「非常時の備品」として用意しておくようお勧めします。
避難靴選びの三つのポイントは次の3点です。
①厚みのある靴底で、しかも滑りにくい
②足先からかかとまで覆える
③濡れても乾きやすい
尖った物などで足裏をケガしないように、ある程度厚みのある靴底が望ましいと言えます。また、避難時の転倒を防ぐために滑りにくい靴底であることも大事。
次に、足先からかかとまで覆えるタイプのものが望ましいのは、足下をできるだけケガから守るためです。サンダルのようにかかとが覆えないものは、ケガのリスクに加えて、急いでいる時に脱げやすいデメリットもあります。
そして三つめの、濡れても乾きやすいものである点についてですが、避難所などに滞在することになった時、濡れた状態から乾きにくい靴だと、履き心地がずっと不快であるうえ、湿気による靴内部のカビ発生から避難所の不衛生にもつながりかねません。
そうした条件に合うアイテムとしては、建設作業に従事する人向けの衣料販売店で売られている「ワークブーツ」や「安全靴」などがマッチします。
また、アウトドアの磯遊びや川遊びに使えるウォーターシューズ(下の画像の右側)も、災害時の移動に適しているかと。しっかりと足下を守ってくれますし、速乾性にも優れています。

あくまでも代用品ですが、知っておくとよいのが「新聞紙スリッパ」です。

被災した家屋での室内移動の際に足を守り、避難所生活などで泥や粉塵の汚れを防ぐのに役立ちます。新聞紙があれば手軽にできるので、私も防災ワークショップで参加者に教えています。『新聞紙』『スリッパ』でキーワード検索すれば、作り方の手順を紹介している動画が複数見つかりますよ。
今回のSpecialist
日本防災士機構認定防災士
古賀由布子(こが ゆうこ) さん

日本防災士機構認定防災士。
「Say!輪(セイリング)」代表。「人と人との輪を紡ぐ」というテーマのもと、学び合いの場づくりを目的として2012年に任意団体「Say!輪」を設立。現在の活動の中心は、『わかりやすく楽しい防災ワークショップ』。防災ワークショップでは、防災をきっかけに老若男女、多種多様な人々が相互理解を深める場を育むとともに、防災意識の啓発活動だけに留まらない、さまざまな地域課題解消のお手伝いにも取り組んでいます。
webサイトhttps://sayring.wixsite.com/2012

