地震、大雨、土砂災害。いつ起こるかわからない災害に直面したとき、多くの人は漠然と「避難所へ行こう」と考えているかもしれません。しかしその選択では、命と安全が守れないケースがあります。
「どんな災害が起きているのか」「今、自分はどこにいるのか」「外へ出ることは本当に安全なのか」…状況によって、取るべき行動は変わってくるのです。
そこで今回は、日本防災士機構認定の防災士である古賀由布子さんに、「災害時の避難」でより良い判断をするために、いま考えておくべきことを教えてもらいました。
「どこに避難するか」を決めておこう

災害が起きてから「どこへ行けばいい?」と考えるのではなく、平常時に避難場所を確認し、「どこに避難するか」を決めておくことは基本的な備えの一つです。「ただ、災害が起きたら一目散に避難所へ行くという選択は、必ずしも正解ではありません」と古賀さんは言います。
例えば、夜中に大雨が降り続き、道路が冠水しているような状況は、避難所へ向かうこと自体が危ない行為になることも。
「そんなときは、状況によっては自宅の2階など、より安全な場所へ移動することも選択肢になります」と古賀さん。
もちろん、家の中に危険が迫っている場合には、早急に別の場所への避難が必要。その都度、瞬時の判断が迫られますが、大切なのは「避難所へ行くこと」そのものを目的にするのではなく、「安全な場所にいること」「命を守れる場所へ移動する」ことを判断基準にするということです。
また、避難に時間がかかる高齢者などは、早めの避難を心がけましょう。気象庁や各自治体から、5段階の「警戒レベル」が発令されるので、判断の参考にしてください。なお高齢者は「警戒レベル3」での避難が推奨されています。

※政府広報オンラインより引用
<POINT>
状況を見ながら「今、外へ出るべきなのか」を判断することも避難のひとつ

避難先を考える場合は、そこへ向かうルートも重要になります。大雨が降れば、いつもの道路が冠水している可能性も。特に道路が地面より低くなっているアンダーパスは、危険な場所のひとつです。
「避難ルートなんて、安全な状況じゃないときちんと考えられません。だから平常時に危険な場所を把握して、そこを迂回するルートを決めておくのがベスト。災害が起きてからでは、遅いんです」。
<POINT>
避難は「目的地を決める」だけではなく、「そこまでどう行くか」も考えておく
場所によって、避難の仕方は変わる
災害は家にいるときに起こるとは限りません。職場や学校、よく行くスーパーや旅先などで被災する人もいます。だからこそ、自宅以外の場所で「もしもここで災害が起きたら?」と想像してみましょう。

「私は、初めての施設に行ったらまず非常口を確認します。非常口を確認するだけでなく、出口の先はどうなっているのか、緊急時はどう避難できるのか。実際に見て、想像力を働かせています」と古賀さん。考える癖をつけるために、真似してみたい取り組みです。
「家族がそれぞれ離れた場所で被災することもありえます。それに備えて、家に帰れないときに集まる場所を決めておくといいですね」。
災害時には携帯や固定電話が非常につながりにくくなるので、連絡手段の優先順位を決めておくことも、いざという時の安心感につながります。
例)連絡手段の優先順位
①LINEの家族グループ → ②災害用伝言ダイヤル「171」/災害用伝言板 → ③三角連絡法
※三角連絡法とは、被災地外の親戚、もしくは知人を1人「中継役」に決め、家族全員がそこへ状況を伝えることです

また、子どもたちに防災の知識や関心を持たせることは、生きる力を育むことにつながります。
「親がずっと子どもを守れるわけではありません。学校や旅先で災害に遭うかもしれないし、将来、1人で災害の多い地域に住む可能性もあるでしょう。危ないからそんなところに行ってはダメだと言うのではなく、自分の命は自分で守れる方法を教えていくことが、親としての役目だと思います」。
車中泊はあり?なし?

2026年7月28日に起こった熊本地震。今も被災者たちが避難所や被災した自宅、車中泊などで不安な毎日を送っています。熊本県の調査によると、2016年に発生した熊本地震では、避難経験者の約7割が車中泊を選んだそうです。理由は「余震で建物が倒壊することを回避できる」「プライバシーが守れる」「小さな子どもや体の不自由な家族がいたから」「感染症が怖いから」「ペットがいるから」。
しかし車中泊にはデメリットもあります。
車内では十分に体を伸ばすことができず、長時間同じ姿勢を保つことで陥ってしまう「エコノミークラス症候群」は、代表的なリスクの1つです。
支援の問題もあります。避難所から離れた場所で車中泊をする場合、食料や物資、必要な情報などが届きにくくなる可能性が指摘されています。
異物や雪が車のマフラーを塞いでしまい、車内に入り込んだ排気ガスによって一酸化炭素中毒になってしまう事例では、死亡事故も発生しています。
「実際に車中泊ってどんな感じなんだろうと思って、仲間と体験してみたんです。意外だったのは、車の窓を開けるか閉めるかで、意見が割れました。プライバシーを確保するために窓を閉めたい人と、外から安否を確認できるように窓を開けておきたい人。“どう過ごしたいか”というのは、男女や年齢で異なることを実感する出来事でした」と古賀さん。
“車中泊はありかなしか”という問いに、正解はありません。“みんながやっているから”という理由で選ぶのではなく、それぞれのメリットとリスクを知ったうえで、自分に合った方法を選ぶことが大切です。
一番大切なのは「自分ごと」にすること

過去に大きな災害を経験していない場合、「自分はきっと大丈夫だろう」と考えがちです。しかし近年は激しい雨や猛暑など、今までとは違う異常気象が続いています。災害は、人ごとでは済ませられない局面を迎えているのかもしれません。
「もし今ここで災害が起きたら、自分はどうする?」と想像することが、防災を自分ごとにする第一歩。特別な防災グッズを買う必要もありません。まずは“想像してみる”ことが重要です。
「防災は、誰かに教えてもらった正解をそのまま実行しても意味がありません。自分がいる場所、家族の状況、災害の種類や時間帯によって、『今、どうすれば命を守れるか』を、ケースバイケースで考えてみましょう。『避難所に行けば安心』『車中泊なら問題ない』でもありません。大切なのは、自分と家族にとって、より安全な場所と行動を、その時に選べることです」。
とはいえ、いつ起こるかわからない災害のことを心配し、いろんなことを想定しながら生活するのは大変ですよね。
「例えば、日本のどこかで何かしらの災害が起きたとき、自分ならこの状況になったときどうする?と落とし込んでみましょう」と古賀さん。
もちろん、思い立った日が吉日です。まずは自分ごとして考えることから始めましょう。
取材ライターのつぶやき
ラッキーなことに、今まで大きな災害にあったことがありません。古賀さんの話を聞くまでは、まさに“人ごとだった”と自覚しました。被災した自分を想像すると、パニックの状態で避難すべき場所や迂回ルートをとっさに思いつく自信はありません。「平時にできることはやってみよう」と決心。良いきっかけになりました。
今回のSpecialist
日本防災士機構認定防災士
古賀由布子(こが ゆうこ) さん

防災士、「Say!輪(セイリング)」代表。
「人と人との輪を紡ぐ」というテーマのもと、学び合いの場づくりを目的として2012年に任意団体「Say!輪」を設立。現在の活動の中心は『わかりやすく楽しい防災ワークショップ』。防災ワークショップでは、防災をきっかけに老若男女、多種多様な人々が相互理解を深める場を育むとともに、防災意識の啓発活動だけに留まらない、さまざまな地域課題解消のお手伝いにも取り組んでいます。
webサイトhttps://sayring.wixsite.com/2012

