わが子の成長に伴い、避けては通れないのが“受験”です。少子化の影響もあり、保護者世代と比べると、子どもの受験に親が関わる場面も増えています。
そこで、受験情報に詳しい升元圭一郎さんに、家族で受験を乗り切るヒケツを教えてもらいました。
初回は、「受験生の親としての心構え」をテーマに、子どもと向き合う際のヒントになる情報をご紹介します。
中学、高校、大学受験の違いを知る

中学受験、高校受験、大学受験では、それぞれ対象となる子どもの年齢が異なるため、親との関わり方も違ってきます。
中学受験の場合は、小学生が受験することになるため、保護者の意向が大きく影響します。入試では、小学校で習わない内容が出題されることから、塾での勉強が必須。通塾に加え、普段の学習でも、保護者の協力が必要になるでしょう。
2024年度の統計によると、私立中学校に在籍する生徒の割合は、中学生全体の約8%(※1)。受験状況は地域によって大きく異なり、やはり首都圏や都市部で私立受験の比率が高いようです。
人気でいえば、公立の中高一貫校も負けてはいません。2000年半ばから急激に増え、いまでは全国にあります。自主性を育む教育が特徴で、6年間をとおした一貫性のある学習で大学受験に備えることができます。
とはいえ、多くの子どもたちにとって「初めての受験」となるのが、やはり高校受験でしょう。15歳での受験になるので、本人の意思が大きく作用します。公立と私立、どちらを重視するかは地域によって異なりますが、居住する都道府県内で、限られた選択肢のなかから受験校を選ぶことが一般的です。入試問題は中学校で学んだ内容から出題されるので、対策も立てやすいといえるでしょう。
そして訪れるのが、大学受験です。2025年の大学進学率は、56%を超えるとされていて、保護者世代の進学率30〜40%を大きく上回ります(※2)。入試では広範囲から問題が出題され、国公立大学を一般入試で受験する場合は、基本的に6科目の受験が必要に。この点も、保護者の時代とは異なります。
高校受験との大きな違いは、全国から入学希望者が集まる点です。浪人生も加わるため、大学によって倍率が高くなります。
「少子化の影響で、現在は、大学の定員数よりも入学希望者が少ない “大学全入時代” といわれていますが、二極化が進行しています。国公立大学や有名私立大学の入学希望者は多く、やはり狭き門です」と升元さんは言います。
(出典)
※1:文部科学省/学校基本調査(令和7年) ※外部リンク
※2:文部科学省/進学率・進学者数推計結果(出生低位・死亡低位) ※外部リンク
<POINT>
中学や高校での受験は、地域差が大きいものの、公立の中高一貫校は全国的に人気が高い。また、いまは“大学全入時代”といわれるが、国公立大学や有名私大は人気があり、倍率も高い。
保護者に求められる心構えとは?

中学受験は、地域やご家庭によって状況が大きく異なるため、ここでは受験者の多い高校受験と大学受験をとりあげます。
高校や大学受験のころは、ちょうど思春期。関わり方に悩む親御さんも多いのではないでしょうか。
「学校選びは、本人の主体性に任せていいと思います。親が受験勉強に干渉したり、受験校選びに口を出しすぎたりするのは禁物。心を開いて話してくれなくなります。かといって、興味を示さないのも、自分に関心がないのかと子どもを不安にさせる。だから保護者は、 “見守る”というスタンスでいることがポイントです。口をはさみたくなっても、そこはグッとこらえて。『味方でいるよ』という姿勢を示していれば、子どものほうから相談してくれるようになります」と、升元さんはアドバイスします。
高校受験では、受験エリアが定まっているので、中学校の先生も高校の情報を入手しています。同じ高校を目指す生徒も多く、情報共有も図りやすいといえるでしょう。一方、大学受験になると、対象が一気に全国へと広がり、入試方法も複雑化しているため、ご家庭でサポートしてあげたほうがよいこともあります。
升元さんも、「意外と多くの高校生が、『大学受験では家族に関わってほしい』と思っているのです」と言います。そこで次のコーナーでは、時代に伴って変化する大学受験の現状を見ていきましょう。
<POINT>
高校受験、大学受験を迎える子どもに対して、親は“見守る”スタンスでサポートしよう。
変化する大学入試

大学入学者の選抜方法は、大きく2つに分けることができます。1つは一般入試、もう1つは推薦入試です。推薦入試は、私立、国公立を問わず行われています。推薦入試にも2タイプがあり、学校長に推薦してもらう「学校推薦型選抜」と、自分で自分を推薦する「総合型選抜(旧AO入試)」があります。
親世代では、ほとんどの方が一般入試を受けてきたと思いますが、2024年では推薦入試の比率が全体の半数にのぼり、私立大では、2人に1人以上となっています。
<令和6年度国公私立大学入学者選抜実施状況>



(出典)
文部科学省「令和6年度国公私立大学入学者選抜実施状況」 ※外部リンク
推薦入試の仕組みや時期は学校によって異なりますが、一般入試よりも早く合否が決まるというのが特徴です。推薦入試を利用する条件として、成績や出席日数が求められる場合もあるため、利用を考えるのであればかなり早い時期から準備しておく必要があります。
「推薦で入学を希望する子どもたちは、教育方針や求める人物像などのアドミッション・ポリシーをよく理解したうえで志望しているので、ミスマッチを防ぐことができます」と升元さん。
「アドミッション・ポリシー」という言葉を初めて聞く方もいるかもしれませんが、これは「入学者受け入れ方針」とも呼ばれるもので、どの大学にもあります。学校理解の役に立つため、保護者もチェックしてみるといいそうです。
「また最近では、推薦で合格しても、他校の受験を認めている大学もあります。いまは本当にさまざまな考え方のもとで入試が行われ、対応も大学によってまちまち。そのため、一つひとつ確認することが大切です」。
一般入試にも、変化の波がきています。最近では、理工系学部を中心に女子比率を高めようと、私立・国公立ともに女子のみが出願できる“女子枠”の設置が相次いでいます。私立の理工系大学では、女子の受験料は無料というところも。それぞれの大学で個性的な取り組みを進めています。
<POINT>
大学入学者は、推薦が増加。 大学によってさまざまな受験制度があるので、保護者も一緒に調べてみて。
コミュニケーションで受験期を乗り切ろう

受験期だと会話にも気をつかい、何を話せばいいか悩むご家庭もあるのではないでしょうか。
升元さんは、「受験はネガティブなものではなく、子どもが自分の将来と向き合い、成長を促すもの」だと言い、こうアドバイスします。
「受験は、普段の生活の延長線上にあるものです。これまで親子でコミュニケーションを図れていたのなら、いつもどおりの会話でリラックスさせてあげてください。
ただお金の話は、子どもを交えてしっかりと情報共有しておくことが大切。子どもは、親が思っている以上に、家の経済状況を気にしています。特に大学進学では、授業料や入学金だけでなく、教材費や施設設備費、一人暮らしをするなら生活費など、想像以上にお金がかかる。そのため、金銭面の遠慮から志望校を言い出せない子どももいます。
お金の話をするときには、『お金がかかるからできない』という方向ではなく、 『どうしたらできるか』という視点で話し合っていただきたい。いまは奨学金制度もさまざまで、学費免除の制度をもつ大学もあります。話し合うことで、子どもも親も納得できる選択ができるといいですね」。
お金の話はタブー視されがちですが、あらかじめ話し合って、不安要素を減らしたいものです。受験費用や奨学金などの情報は、10月16日配信のvol.3「受験・進学にかかるお金について」で詳しくお伝えします。
<POINT>
いつもどおりのコミュニケーションで、子どもをリラックスさせてあげて。ただお金のことは、子どもを交えて話し合おう。
取材ライターのつぶやき
普段からコミュニケーションを図って、子どもが相談しやすい環境をつくっておくことが大切ですね。受験は、子どもが成長するためのものだとポジティブにとらえて、どっしりと構えられる親でありたいと思います。
今回のSpecialist 升元 圭一郎(ますもとけいいちろう) さん
クリエイティブ・ディレクター
大手広告代理店で大学を中心とした教育機関の広報やコンサルティング、ブランディング事業などに従事。独立後も、各種教育関連の企画・広報に携わり、受験生や保護者に有益な情報を発信しています。

