時代の変遷とともに、ライフスタイルは多様化していますが、昔から脈々と伝わる年中行事の数々は、私たちの日々の暮らしに心地よさと彩りをもたらしてくれます。そこで、行事のある暮らしの楽しみ方を発信している「いとよし」代表 尾﨑美香さんにお話を伺い、今の時代に無理なく実践できる、年中行事の魅力をご紹介します。第1回目は、まさに今から始めたい“お正月の準備”です。
正月事始め

▲神社仏閣での煤払い。神様は「清浄」を好まれるといわれ、社殿や境内の掃除や心身の祓い清めが特に大切にされています
お正月を迎える行事のトップバッターは「正月事始め」です。毎年12月13日頃に、神社仏閣で「煤払い」が行われている光景を、TVのニュースなどで見かけることがありませんか? 煤払いは、お正月にやってくる年神さま(歳徳神、正月さまなどとも呼ばれます)をお迎えする前に、一年の汚れやケガレを祓うために行われていました。福をもたらす神さまをおもてなしするため、家を清潔にする行事が、現在も“大掃除”として受け継がれています。最近では12月が寒いので、春や秋に大掃除を済ませてしまう人もいるようです。

「私もよい年を迎えられるように、家の中をきれいにしたいと考えています。
まずはいつ何をするか、予定を立てることからスタート。大きめの紙を2枚用意して、1枚目はまずto do listを書き出します。2枚目にカレンダーを書いて、そのタスクをいつやるか、誰がやるかを家族と話しながら書き出し、できたらリビングの壁に貼ります。終わったら赤線でチェックして消していくのが気持ちいいです」と尾﨑さん。
掃除だけでなく、正月を迎えるための買い物や年賀状の準備などやることが多いこの時期。お母さんだけが忙しくするのではなく、家族も一緒に12月の忙しさを共有すると、年を迎える喜びをみんなで感じられそうです。
<POINT>
ただ、頑張りすぎてダウンしてしまうのは本末転倒。インフルエンザなどが流行する時期でもあるので、欲張りすぎない程度に予定を立てて、体を休めながらにしましょう。
おせち

おせち料理は、もともと年神さまにお供えするために作られたものでした。弥生時代に始まり、平安時代に宮中行事として定着、江戸時代に庶民に広まったとされています(諸説あります)。年神さまと同じものを食べることで、福を招き、災いを打ち払えると考えられていたのです。お正月には両方の先が細くなっている「祝い箸」を使います。片方は神さまが、もう片方を私たちが使い一緒にいただくという意味があるので、ぜひ用意しましょう。
新しい年を祝い、家族の健康を祈りながら食べるおせち料理。黒豆、数の子、栗きんとんなど、おなじみの食材には、それぞれ意味が込められているのは、あまりに有名な話。ですが、ここで改めておさらいしましょう。

<代表的な食材の意味>
黒豆 ▶︎ 「まめ(勤勉)に働き、まめ(健康)に暮らせるように」と願って
数の子 ▶︎ ニシンの卵の多さから子孫繁栄を願います。「二親(にしん)」とかけて、両親の健康を祈る意味もあります
栗きんとん ▶︎ 漢字では「金団」。金のお布団のことで金銀財宝を意味し、金運を呼ぶ縁起物
紅白かまぼこ ▶︎ 赤色は魔除け、白色は清浄を表します。また、形状が初日の出に似ている点も好まれます
伊達巻 ▶︎ 巻かれた書物のような見た目から、学業成就や知識の蓄積などを祈願
昆布巻き ▶︎ 「よろこぶ」の語呂合わせ。漢字で「養老昆布(よろこぶ)」とも書けることから、健康や長寿を願う意味も
鯛 ▶︎「めでたい」という語呂合わせ。真っ赤な色合いが慶事にふさわしい縁起物
海老 ▶︎ 長いひげを持ち、重箱に背を丸めて入っていることから、長寿祈願の意味を持っています
紅白なます ▶︎ 縁起物の水引が連想され、平和や平安の意味が込められています
れんこん ▶︎ 穴から先を覗くことができるため「将来の見通しが良い縁起物」
ひと昔前は、食材を用意し、自分でおせち料理を作って食べるのが一般的でした。しかし、近年は共働き世帯が増加し、おせちを作る時間が取れないなどの理由から、購入する人が増えています。
そうした状況の中、尾﨑さんはこう語ります。
「おせちを買う方も多いと思いますが、ぜひ一品でも二品でも手作りにチャレンジして欲しいなと思います。自分で作ると好きな味付けにできて『おせちって美味しい!』と気づくこともあります。子どもの頃に食べて好きだったものがあれば、親御さんにレシピを聞いて作るのもいいでしょうし、独自のレシピを開発するのも良いですよね」。
続いて、おせちにまつわる思い出話も披露してくれました。
「数年前、海外の友人家族が来日して、我が家のおせちを食べてくれました。最初は、食べ慣れない料理だからどうかな…と心配していましたが、大人も子どもも美味しいと大喜びでした。そこで聞かれたのが「おすすめのファミリーレシピ」はどれか、ということ。その時、作り継いでいく味というものを意識しました。
我が家にも家族が好きなおせちはそれぞれあります。私が作るおせちには、そんなに手が込んだものはなく、栗きんとんは焼き芋を使い、手間も砂糖も減らしています。お雑煮もさほど手はかからないけれど、お正月の特別な料理です」。
<POINT>
手が混んでいなくても大丈夫!簡単なおせち料理を1品だけ作ってみると、お正月にこれまで以上の愛着が湧きそうです。
しめかざり

玄関先や神棚に飾る「しめかざり」。しめ縄に願いを込め、縁起物の飾りをつけたことが始まりと言われています。飾りにもそれぞれ意味があり、橙は「代々繁栄しますように」、裏白は「裏表のない清らかな心で一年を過ごせるように」、ゆずり葉は「子孫が途絶えないように」という願いが込められています。形やデザインは地域によって様々。近年は、アレンジが素敵なしめかざりも人気です。

▲鶴が羽を広げた形の優雅な「鶴のしめかざり」。栃木県のしめ縄農家・小林さんが、苗から育てた青藁を使用したしめかざりは、深呼吸したくなるような青藁の清々しい香りです。「いとよし」オンラインショップで購入できます。(数量限定)
「しめかざりは、できれば12月28日までに飾りましょう。あるいは30日でも大丈夫です。年末ギリギリの31日は「一夜飾り」と言って嫌われますし、29日は「苦」に通じてよくないとされます。しめかざりはしめ縄から派生したものなので、お正月の神さまに「清浄な空間です」とお知らせして、よい年を迎えるためのものです」と尾﨑さん。できる限り、家をきれいにしてから飾りたいものです。
取り外すのは、一般的に「松の内」と呼ばれる1月7日。これは地域によって違うので、お住まいの地域で確認してください。

▲神社の敷地内で行われる「どんど焼き」。門松やしめかざりなどの正月飾りを燃やし、その火や煙に当たることで無病息災や家内安全を願う行事です。
取り外したしめ飾りは、神社で行われる「左義長(さぎちょう)」「どんど焼き」で焼いてもらうのが最適です。近くに神社がない、神社まで行けないという場合は、一般ごみで処分しましょう。プラスチックなどが付いているものは分別してくださいね。塩をふり、お清めしてから処分することをお勧めします。
<POINT>
飾る時期、取り外す時期があるので、気をつけましょう
年越しそば

年末の風物詩のひとつ、年越しそば。諸説ありますが、始まったのは江戸時代の前〜中期頃だそうです。そばを食べる理由も、いくつもの説があるのですが、「細く長く伸びるそばは寿命を延ばして家運を伸ばす縁起物だから」というのが一般的。他にも「畑のそばは風雨で倒されても起き上がるから、失敗しても盛り返せる」、「他の麺類に比べて切れやすいことから、一年の苦労や借金を年内に切り捨て、翌年に持ち越さないようにするため」などがあります。
ところで、気になるのは食べる時間帯。みなさんは大晦日のどの時間に食べていますか?
そもそもは一年の最後に、願掛けの意味合いを含んでいるので、新年を迎える直前に食べることが前提だったようです。しかし、今はそれが正解というわけではありません。各々、家庭の習慣として夕食時に食べたり、除夜の鐘を聞きながら食べたり、様々で良いとされています。
ただ、「年越しそばは食べ残すと、新しい年には金に苦労する」という言い伝えがあるそうなので、残さずきれいに食べましょう。
<POINT>
そばが苦手な人もいると思いますが、実は「年越しうどん」が通常の地域もあります。そばもうどんも、長寿や家運長命を願う縁起物として問題なし。好きな方を味わいましょう!
「お正月は、年が改まる大切な行事なので、良い年を迎えるためにできることはしたい」と話す尾﨑さん。お正月準備の中で、一番好きな時間は「31日のおせち作り」だそうです。
「日本のお正月は、いい年になるように願いを込めた縁起物のオンパレードです。おせち料理やお雑煮、七福神、初詣などなど、日本のお正月にしか味わえないことをぜひ楽しんでください。皆さまにとって幸多きよい年になりますよう、お祈り申し上げます」。
取材ライターのつぶやき
尾﨑さんのおせちの思い出話を聞いて、私のファミリーレシピはなんだろう…胸を張って「これだ」と言えるものが欲しい!と強く思いました。まだ、おせちを手作りしたことはありませんが、お雑煮は実家で食べる味を真似して作っています。今年はおせちも何か1品、自分で作ってみようと思いました。
今回のSpecialist いとよし 尾﨑 美香 さん

行事と楽しむ暮らしを提案する「いとよし」代表。
大学卒業後、花王(株)にてコピーライター・クリエイティブディレクターとして化粧品や日用品のブランディングやコミュニケーション戦略に携わる。退社後、日本文化の学び直しを求めた「室礼三千」で行事の魅力を再発見し、2018年「いとよし」を立ち上げる。ワークショップ主催、メディアでの情報発信、田んぼと暮らしをつなぐ企画など、行事や暦のある暮らしの提案を行なっている。著書に「季節の行事といまどきのしつらい手帖」(エクスナレッジ)。TBSやJ-WAVE、雑誌「天然生活」などメディアにも出演。
いとよしwebサイトhttps://ito-yoshi.com/

