時代の変遷とともに、ライフスタイルは多様化していますが、昔から脈々と伝わる年中行事の数々は、私たちの日々の暮らしに心地よさと彩りをもたらしてくれます。そこで、行事のある暮らしの楽しみ方を発信している「いとよし」代表 尾﨑美香さんにお話を伺い、今の時代に無理なく実践できる、年中行事の魅力をご紹介します。
第2回目のテーマは、 今も日本人にとって特別な期間である“お正月”です。
お正月とは

日本には古くから「万物に神が宿る」という考えがあります。その年の豊作や幸せを授けてくれる「年神さま」は、初日の出とともに各家庭に訪れると信じられてきました。一年に一度、年神さまを迎え、幸せをいただくために様々な風習や行事が生まれたのが、今も残る「お正月行事」の由来です。
では、「お正月」とはいつまでなのでしょう。期間と名称をおさらいします。
お正月:1月1日〜31日まで。「正月」とは1月の別の呼び名でもあります。
元旦:1月1日の朝や午前中のこと。初日の出とともに年神さまが訪れます。
元日:1月1日の1日全体を表します。新年が始まる日です。
三が日:1月1日から3日までで、新年をお祝いする期間。初詣に行ったり、おせちを食べたりして過ごします。
松の内:年神さまが家にいらっしゃる間、門松などのお正月飾りを飾っておく期間(関東は1月1日〜7日、関西は1月1日〜15日まで)。松の内を過ぎると年神さまが帰られるため、お正月飾りは片付けます。
小正月:1月15日、または1月14日〜1月16日。1月15日の朝に小豆粥を食べると、1年間の邪気を払い、無病息災を願うという風習があります。お正月飾りのお焚き上げをする「左義長(さぎちょう)」や「どんど焼き」も小正月の行事です。三が日は学校や仕事が休みになる人が多いので、自宅や故郷でゆっくり過ごす人もいれば、休暇を利用して旅行に行く人もいて、思い思いの過ごし方をしていることでしょう。そこで尾﨑さんに、お正月をどう過ごしているのか尋ねました。

「子どもの頃からの習慣で必ず家族と家で過ごしています。実家や義母の元に帰る時は、手作りのおせちを持っていくのが定例になりました。作るのが大変だと知っているからか、とても喜ばれ、褒められます(笑)。
お正月は基本、ごはんのこと以外は何もしません。だいたいT Vで駅伝を応援しながら、お酒を飲んで機嫌よくしています。たまに箱根駅伝を走る大学生を応援しようと、沿道に駆けつけることも。
一年の始まりのお正月は、家族でいることを特に大事に思う時かもしれません。子どももいずれ巣立ちますし、いま一緒にいられることに感謝して、朝おせちを食べるときに集合写真を撮る決まりにしています」と尾﨑さん。
普段は何かと忙しいので、“お正月”という節目を感じながらゆっくり過ごすことは、現代の私たちにとっては、すごく贅沢な時間なのかもしれません。
初詣

初詣は今でも皆さんが行う、親しみのあるお正月行事です。始まったのは平安時代とされ、大晦日の夜から元旦(元日の朝)まで「年籠り」をして年神さまを迎え入れたそうです。それがいつしか大晦日の「除夜詣(じょやもうで)」と、年明けの「元日詣(がんじつもうで)」にわかれていったといわれています。また、大晦日から元旦をまたいで参拝することを「二年参り」といい、今では初詣の形式のひとつとなっています。
年の初めにお参りすると、新年の幸福が増すと言われています。本来は自分たちが住んでいる地域の氏神さまに新年の挨拶をするものですが、今ではご利益を求めてあちこちの有名な社寺にお参りする人もいます。
<POINT>
初詣は「元旦」(元日の朝)、または「三が日」の間に行くのが良いと言われていますが、なるべく「松の内」までに行くのが良いでしょう。立春や旧正月も新しい年の始まりを表すので、この日に合わせると落ち着いて参拝することができます。
お雑煮

▲関東風のお雑煮
お正月の定番料理の一つであるお雑煮は、汁、餅、具材などが地域によって異なり、そのバリエーションは多種多様です。ですから全国的な定番!というものはありません。しかも期間限定の家庭料理ということもあり、外で食べる機会もほとんどありません。
お雑煮は大晦日の夜、年神さまにお供えしていた餅とお供え物を一緒に煮て食べ、年神さまの力を分け与えてもらうというものでした。室町時代ごろから始まり、庶民の間では江戸時代に定着したとされます。そのため、地域ごとの雑煮の調理法や具材などの違いは、江戸時代の食生活や流通に由来するものが多くあるそうです。

▲関西風のお雑煮
「集落の数だけ雑煮の種類がある」と言われるほど、多種多様なお雑煮。全てを紹介できないので、ここでは「餅」に注目します。
お雑煮に入れる餅は、もともと丸い形で京都を中心に広まりました。そして角餅は、江戸時代に江戸から広まったとされています。そのため西日本では丸餅、東日本では角餅のところが多いようです(珍しいところでは、香川県の雑煮は白味噌仕立ての汁に“あん入りの餅”を入れるそうです)。
そして餅の調理法にも違いがあります。丸餅の多い西日本では「煮る」、角餅の多い東日本では「焼く」が多いようです。ただ名古屋では「白(城)を焼く」というイメージを嫌った武家の影響で、角餅でも煮るところもあるそうです。
<POINT>
地域性だけでなく、家庭によってもお雑煮は違います。祖先や親の出身地、結婚した相手の出身地、好みなどが融合して「我が家のお雑煮」ができあがっているのではないでしょうか。
お正月におすすめしたいこと

ここでは紹介できませんでしたが、「初日の出」「お屠蘇」「若水」など、年末からの準備も含め、お正月には様々なならわしがあります。やってみたい気持ちがあっても、全てやるのは難しい・・・そこで尾﨑さんに「読者におすすめしたい、ぜひ試してほしいこと」を1つ教えてもらいました。
「お正月は、やはりお餅です。お正月の支度も多々ある中で、鏡餅は一番大事だと思っています。お正月には神さまがやってくるという考え方は、知らない人も多いかもしれません(私も子供が生まれてから知りました)が、新しい年を授けてくださる年神さまは、家にやってきて鏡餅に宿ると考えられているんです。ですので、鏡餅がないと、年神さまの居場所がないことになってしまいます。小さくても構わないので、鏡餅を飾ってみましょう。みかんでもポンと乗せたら、一気にお正月らしくなります。赤い実がかわいくてお正月らしい千両、万両、南天などは、年末になると花屋さんでも手軽に手に入ります。あまり凝ったお正月飾りは難しい、という方にもおすすめです。
前回の記事(vol.1)にも書きましたが、お正月は「ハレ」と「ケ」でいったら最大級の「ハレ」の日です。帰省したら普段会えない家族や親戚、仲間との出会いもあるでしょう。毎日家族で顔を合わせていたとしても、食卓に揃って「明けましておめでとうございます」と挨拶して、お年玉のやり取りや抱負を述べ合う、なんていうのもいい一場面だと思います。他の日の延長ではなく、お正月らしいことを楽しんで欲しいなと思います」。
取材ライターのつぶやき
知っているようで、深くは知らなかったお正月行事がたくさんありました。この記事を読んで、「今年はいつもより少しだけ丁寧にお正月を過ごそうかな」と、思ってもらえたら嬉しい限りです。無理をしない範囲で、日本ならではのお正月行事を取り入れ、お互いに清々しい一年を始めましょう!
今回のSpecialist いとよし 尾﨑 美香 さん

行事と楽しむ暮らしを提案する「いとよし」代表。
大学卒業後、花王(株)にてコピーライター・クリエイティブディレクターとして化粧品や日用品のブランディングやコミュニケーション戦略に携わる。退社後、日本文化の学び直しを求めた「室礼三千」で行事の魅力を再発見し、2018年「いとよし」を立ち上げる。ワークショップ主催、メディアでの情報発信、田んぼと暮らしをつなぐ企画など、行事や暦のある暮らしの提案を行なっている。著書に「季節の行事といまどきのしつらい手帖」(エクスナレッジ)。TBSやJ-WAVE、雑誌「天然生活」などメディアにも出演。
いとよしwebサイトhttps://ito-yoshi.com/

