高齢化社会の中で注目されているのが、家庭内の事故。以前は問題なくできた動作が加齢と共に難しくなることが、思わぬ事故やケガにつながることがあります。
インテリアコーディネーターの松本理絵さんは、作業療法士としての勤務経験に基づき家庭内事故を防ぐ「55歳からのインテリア」を提案しています。いつまでも安全に過ごせるわが家にするために、インテリアを見直してみませんか。
55歳、少し先の未来を想像する

年齢を重ねると、視力や聴力といった感覚機能の低下や、認知機能の変化などに直面することが増えてきます。知らず知らずのうちに小さな字が並ぶ本や新聞を避け、夜間の運転をやめていることも。このような変化は少しずつ進行するため、いざという時に危険に気付けない場合があります。
高齢者の視覚変化(例)
・老眼や視力低下
・色や明暗・濃淡などコントラストがわかりにくい
・暗い場所に目が慣れるまで時間がかかる松本さんによると、家庭内での事故は「おぼれる、転ぶ、のどに詰まる」の3パターンが多いそうです。事故を防ぐために、身近にできることから対策をはじめましょう。
浴室は安全性を第一に

一日の疲れをいやすお風呂タイム。でも、年齢を重ねると転倒や溺水など事故が起きやすい場所にもなってしまいます。湯気などで視界が悪い状態で、濡れた床や段差で転倒するリスクが高まるからです。
「実は、大きな浴槽にも弱点があります。足を伸ばして広いお風呂に入ると、ほぼ横になった体勢でお湯につかることになりますが、背中側の壁に傾斜がついているため、お尻がずれるとお湯の中に沈んでしまうリスクが高くなります。一方、昔ながらの体操座りで入る浴槽は、足を突っ張りやすく、姿勢の保持に優れています」
浴室の安全性を高めるポイント
・洗面器や椅子などの小物は、壁や床に対してコントラストの強い色を選んで目立たせる。
・ドアの近くと浴槽の内側に手すりをつける。
・小柄な人や高齢者がいる家庭でリフォームを考える場合は、ショールームで浴槽に入って、動作できるかを確認する。
・壁や床、段差などがわかりやすい明るさと、視認性の高い色の組み合わせを意識する「高齢者は筋力だけでなく視力などの認知能力も低下するので、とっさの場合に反応できず、大きな事故につながることがあります。どこに何があるかが一目でわかる状態にして、いざという時に浴槽内でつかまれる手すりも用意した方が良いと思います」。
安心感につながるトイレの工夫

作業療法士として、多くの高齢者に接してきた松本さん。「高齢の方が最後まで自分で行いたいと思うのは、トイレです。同時に、非常に事故が起きやすい場所でもあります」と教えてくれました。
実は私たちがトイレで行っている動作は、重心移動や衣服の着脱などを含む複雑なもの。例えば、ベルトを外してズボンや下着を下ろし、排せつ後に立ち上がって膝の上から衣服を持ち上げるという動きは、姿勢を維持する筋力が衰えた状態では非常に難しくなるそうです。ドアを開閉して、便器に背中を向けて、ちょうど良い場所に座るという何気ない動作も、高齢になるほど難しくなっていきます。
「トイレの手すりといえばL字型のものをイメージされる方も多いでしょう。こういった手すりも、取り付け位置によってはかえって体を支えにくくなることがあります。専門業者に相談して、早めに取り付けることをおすすめします。トイレの間取りによっては、おしゃれな手すりを選ぶこともできると思います」。
身体的な衰えや認知機能の低下が進むと「トイレがギリギリになる」「間に合わない」という悩みも出てきます。少しでも余裕を持って対処するためには、使いやすいトイレにしておくことが大切ですね。
リモコン操作で快適さをキープ

「高齢になると、動くこと自体がおっくうになります。例えば、部屋の照明を点け、カーテンを開けることが面倒だからと、テレビの明かりだけで生活している方もいます」と、松本さん。視力が低下した高齢者が薄暗い部屋で生活することは、転倒や事故のリスクを高めてしまいます。
電動のカーテンレールやブラインドは、座った状態でリモコンによる開閉ができる優れもの。その場に座った状態で、窓から自然光を取り入れることができます。
エアコンや照明などは、わかりやすい場所にスイッチを設置。リモコンや自動点灯機能などを利用して、快適な環境をキープしたいですね。
取材ライターのつぶやき
高齢になった親世代を思い浮かべながら、松本さんのお話を聞いていました。若い頃と比較するとできないことは多いかもしれませんが、本人が安心できる状態で生活できることが大切ですね。私も長く動き続けられるように、準備をしておきたいと思いました。
今回のSpecialist 松本 理絵(まつもと りえ) さん

「広島一敷居の低いインテリアコーディネーター」として、新築マンションの入居前内装、建売戸建ての窓施工含むコーディネート、一般・プロ向けのインテリア講座などで幅広く活躍。インテリアコーディネーター、二級建築士、作業療法士。
INdesign 松本 理絵https://www.miyakagu.com/

