行事のある暮らしの楽しみ方|端午の節句

2026.04.22 | 暮らし全般

時代の変遷とともに、ライフスタイルは多様化していますが、昔から脈々と伝わる年中行事の数々は、私たちの日々の暮らしに心地よさと彩りをもたらしてくれます。そこで、行事のある暮らしの楽しみ方を発信している「いとよし」代表 尾﨑美香さんにお話を伺い、今の時代に無理なく実践できる、年中行事の魅力をご紹介します。
第5回目のテーマは時代を超えて受け継がれる、男の子に向けたお祝いの日「端午の節句」です。

年中行事と国民の祝日

毎年5月5日といえば「端午の節句」と「こどもの日」ですね。どちらも同じ日ですが、由来と意味が異なるので、まずはそれぞれについて説明します。

「端午の節句」の起源は古代中国です。日本の文化と結びつきながら独自の形に発展し、今日まで続く伝統的な年中行事となりました。中国では陰暦5月5日に行われる行事で、邪気を払うために龍の装飾をした舟(ドラゴンボート)を漕ぐ競技や、薬草を用いて病気や悪霊を追い払う風習があります。

「端午の節句」が無病息災を願う行事として日本に伝わり、平安時代になると宮廷行事として貴族の間で盛大に行われるようになりました。武士の時代になると「男の子の成長と家族の繁栄を祝う行事」に変化していきました。武家では跡継ぎの男子の誕生は最大の慶事だったため、端午の節句に兜や幟旗(のぼりばた)を飾って盛大に祝い、それが一般庶民にも広まったのです。

時は流れ、1947年(昭和22年)。日本国憲法が施行され、それまでの祝祭日についても再検討が必要とされました。国会では「新憲法の趣旨に副(そ)うべきこと」等の観点から、約7か月にわたって検討が行われ、翌年の1948年(昭和23年)に9つの祝日が選定されました。そのうちの1つが5月5日の「こどもの日」です。

それまで男の子の健やかな成長を願う日だった端午の節句が、「こどもの人格を重んじ、こどもの幸福をはかるとともに、母に感謝する」として国民の祝日となりました。

<POINT>
「端午の節句」という年中行事がベースにあり、それを踏まえて誕生したのが国民の祝日「こどもの日」です。本記事では伝統行事である「端午の節句」を中心に紹介します。

現代も続く風習

端午の節句には「こいのぼり」や「五月人形」を飾る風習があります。尾﨑さんに「こいのぼり」の由来について教えてもらいました。
「こいのぼりは、急流を上り切った鯉が龍になったという中国の故事(登龍門)にあやかって、立身出世を願ったものです。もともとは武士の幟(家紋が入った縦長ののぼり)に憧れて、江戸時代に町人が作ったと言われています。最初は黒一色の真鯉だったものが、時代と共にカラフルに家族と泳ぐように柔軟に変化してきました。

行事も正しくやらないといけない、わからない、できない、と離れてしまうのは寂しいもの。大事なのは気持ちですから、四季の行事も自分のやり方で楽しめたらいいですね。5月の青空に雄大に泳ぐこいのぼりは、美しいし胸がスカッとして私は大好きですが、マンションの我が家では難しいので、小さい和紙のこいのぼりを木の枝に飾ったりして楽しんでいます」。

▲和紙のこいのぼりは「いとよし」のサイトで販売されます。自分で色を塗るキットと桐箱入りのセットがあり、昨年も大人気だったそうです。

また、外に飾る「こいのぼり」に対し、家の中に飾る「五月人形」は「兜、鎧、大将飾り」などを飾るのが特徴です。こどもの代わりに厄を引き受けるとされており、その子の安全や健康を見守るという意味があるそうです。

湯船に菖蒲の葉を入れた「菖蒲湯」も、端午の節句の定番です。

「明治の初めまでは旧暦5月5日だったので、現代なら6月に入ってからの行事でした。梅雨どきで気候が悪く、疫病も流行りやすい「悪月」と呼ばれた時期を、元気に乗り切るために使われていたのが菖蒲。5月5日は薬狩りをする日として、薬草を摘む日でもありました。今も5月5日に合わせて菖蒲が店頭に並びます。

根の方が香りは強く、とても清々しくて、邪気を祓うにはまさしくピッタリ(ちなみに花の咲く菖蒲とは違う、サトイモ科の植物です)。その時に旬を迎える植物から力をもらうのは、自然と共に生きている感じもあっていいですよね。行事を通して、お子さんたちが日本のことにふれる機会がたくさんあるといいなと願います」と尾﨑さん。

菖蒲湯に入るだけでなく、菖蒲の葉を軒先に吊るしたり、菖蒲酒を飲んだり、枕の下に菖蒲を敷いて寝たり。さまざまな風習が行われてきました。

<POINT>
菖蒲湯は血行促進の作用が期待できます。お湯の温度を少し高くすると、より香りが強くなります。

お祝いの食べ物

「こどもの日」の行事食として有名なのは「柏餅」と「ちまき」です。
柏餅とは、柏の葉にあんの入ったお餅を包んだ食べ物です。
「柏の木は若葉がある程度育つまでは枯れても葉を落とさないことから、子を守る親の姿に見立てられ、子どもの成長や子孫繁栄を願って使われているものです。無事に大きくなるように、とみんなで食べるのもいいですよね」と尾﨑さん。
味噌あんやヨモギのお餅など味もいろいろですから、選ぶのも楽しそうです。

餅米などの粉を練り、竹の皮や笹の葉などで包んで蒸した三角形の餅「ちまき」も、行事食として食べられています(東日本で「ちまき」といって思い浮かべる「中華風おこわ」とは違うものです)。地域によって中身に違いがあり、北海道から関東では「中華風おこわ」、関西では白くて甘いお餅を包むのが一般的です(なお、鹿児島県では「ちまき」の代わりに「あく(灰汁)まき」と呼ばれる餅菓子を食べるのが主流だそうです)。

「ちまき」は中国伝来の食べ物で、中国の楚(紀元前11世紀〜前223年)の王族・屈原(くつげん)の故事に由来しています。民からの信頼を集め優秀な政治家だった屈原は、謀略によって失脚し、国を憂いて5月5日に汨羅江に身を投げてしまいます。川に住む龍に食べられないよう、米をセンダンの葉で包み、供物として川に投げ入れたものが「ちまき」の由来。屈原のような立派な人になってほしい、との願いから5月5日に食べられるようになりました。
やがて厄除けの儀式を行う端午の節句と結びつき、ちまきを食べる風習が現代に受け継がれています。

<POINT>
その他、生命力の強さや成長スピードの速さ、まっすぐ健康に育ってほしいという願いを込めて「たけのこ」を使った炊き込みご飯やちらし寿司も縁起が良いと言われています。ブリやカツオなどの出世魚を食べる地域もあります。

端午の節句に思うこと

「もともと日本人は縁起物や季節の旬のものが大好きです。行事は縁起物の宝庫ですので、そこを楽しむのもいいかと思います。私は妹と2人姉妹で、家に男の子がいなかったからか、特に5月5日の思い出はありませんが、柏餅を食べることは昔から馴染みがありました。余談ですが、私が結婚式を挙げたのが5月5日で、ご列席の方にお土産として柏餅を用意したんです。若い時は行事のことに関心が高くもなかったのですが、季節のものを楽しみたいのは昔からなのかもしれませんね。」と尾﨑さん。

時代を超えて、日本の家庭で受け継がれている「端午の節句」。もとは男の子のお祝いに限定したものでもありませんので、季節の行事を楽しむという目的で、お祝い食や行事の風習など何か1つやってみませんか?日本の文化として受け継がれた行事を、自由に、ゆるやかに満喫しましょう。

取材ライターのつぶやき

5月5日前後になると、日本各地で使われなくなったこいのぼりが川に飾られ、圧巻の風景を作り出します。これを最初に始めたのはどこなのでしょうか。その素晴らしいアイデア、尊敬します。我が家の近所にある小さな川にも、規模は小さいながらも色とりどりのこいのぼりが悠々と空を泳ぎます。私はこの愛おしい風景を毎年心待ちにしており…今年は柏餅を片手に眺めようと思います♪

次回はこどもの日にちなんだ料理のレシピをご紹介します。どうぞお楽しみに。

 

今回のSpecialist いとよし 尾﨑 美香 さん

行事と楽しむ暮らしを提案する「いとよし」代表。
大学卒業後、花王(株)にてコピーライター・クリエイティブディレクターとして化粧品や日用品のブランディングやコミュニケーション戦略に携わる。退社後、日本文化の学び直しを求めた「室礼三千」で行事の魅力を再発見し、2018年「いとよし」を立ち上げる。ワークショップ主催、メディアでの情報発信、田んぼと暮らしをつなぐ企画など、行事や暦のある暮らしの提案を行なっている。著書に「季節の行事といまどきのしつらい手帖」(エクスナレッジ)。TBSやJ-WAVE、雑誌「天然生活」などメディアにも出演。


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