時代の変遷とともに、ライフスタイルは多様化していますが、昔から脈々と伝わる年中行事の数々は、私たちの日々の暮らしに心地よさと彩りをもたらしてくれます。そこで、行事のある暮らしの楽しみ方を発信している「いとよし」代表 尾﨑美香さんにお話を伺い、今の時代に無理なく実践できる、年中行事の魅力をご紹介します。
第6回目のテーマは、1年を折り返すターニングポイント「夏越しの祓え(なごしのはらえ)」です。
夏越しの祓えとは

1年の半分にあたる6月30日に、半年間で身体に溜まった“ケガレ”を落とし、残り半年の息災を祈願する神事のことで「夏越大祓(なごしのおおはらえ)」とも呼ばれます。この時期、神社に大きな茅の輪(ちのわ)が据えられている光景を見たことがある方もいるのではないでしょうか。
「夏越しの祓え」がどのような日なのか、尾﨑さんにお尋ねしました。
「ちょうど1年の折り返しなので、改めて無事に過ごせたことへの感謝と、あと半年、つつがなく送れるように願う日です。人によってはあまりなじみのない行事かもしれませんが、6月に入って神社で茅の輪が出てくると、夏越しが来るという目印ですね。縁起物だと思って、見かけるたびにあちこちでくぐってお参りしています。くぐるとやっぱりすっきりします。気の持ちようだと思いますけど(笑)
行事や暦には対になっているものがありますが、前半の最後には夏越しの祓え、年末に年越しの大祓えがあります。年末は大掃除をし、年が新しくなることへの心の準備などを自然としている気がしますが、1年を折り返すこのタイミングも意識をすると、気持ちを整えられていいなと思います。無事に過ごせたことへの感謝、半年頑張った自分へのいたわり、この先暑くなるので体調管理に気をつけようなど、ご自愛のきっかけにもなるのではないでしょうか」。
歴史と由来
夏越しの祓えは、6月の晦日(みそか=月の最終日)に行う「大祓(おおはらえ)」です。「大祓」とは、7世紀後半から始まった年中行事のひとつで、毎年6月と12月の晦日に人々の罪やケガレを祓い清めるため、宮中や神社で行われる神事のことです。特に6月の祓えは夏季の悪疫除去の意を含めて、盛んに行われるようになりました。
▲『諸国図会 年中行事大成』に描かれた、夏越しの祓えの様子(国立公文書館デジタルアーカイブより)
チガヤなどの植物で作られた茅の輪をくぐるという風習は、江戸時代に刊行された『諸国図会 年中行事大成』に、現在のものと変わらない大きな茅の輪と、人々が参拝に押し寄せる様子が描かれています。

また、ヒトガタ(人の形をした紙)にケガレを移し、身代わりとして神社に納め、災厄を祓う「ヒトガタ流し」という行事もあります。身代わりとなったヒトガタは神事で川や海に流したり、篝火(かがりび)で焚いたりします(神社によってやり方は異なります)。
尾﨑さんは、都合が合う時は神社での行事に参加することもあるそうです。
「場所によっては、茅の輪をくぐる行列が長蛇の列になるような神社もありますね。ケガレを移したヒトガタを納めたり、紙吹雪のような切幣(きりぬさ)で身を清めたり、体験してみるのも興味深いです。大勢の方と一緒に行うと一体感があって、なかなかいいものです」。
神事の作法

茅の輪くぐりは、神社によって作法が異なりますが、一般的な作法をご紹介します。
①「水無月の 夏越の祓する人は ちとせの命 延(の)ぶといふなり」というご神歌(神社によって違うこともあります)を唱えながら、まず茅の輪を左足から跨ぎ、左側からまわって正面へ戻ります。
②続いて右足から右側へまわり正面へ、さらに左足から左回りで正面に戻ります。8の字を書くように左・右・左と3度くぐります。
③最後に左足から跨いで、本殿へむかい参拝します。ヒトガタ流しは、形代に自分の名前や年齢を書き、体をなでたり、3度息を吹きかけたりして、罪やケガレを託します。体の悪い部分をこすることで、人形に厄を移すといった意味合いもあります。
涼しげな行事菓子を楽しむ

夏越しの祓えには、「水無月」という和菓子を食べる風習があります。
「京都発祥だと言われる『水無月』ですが、最近では行事菓子として全国的に販売されるようになってきました。名前は6月の別名でもありますが、この時期だけのお菓子ですので、見かけたら召し上がってみるのもよいのでは。三角の形は暑気払いの氷をかたどって作ったと言われています。小豆の赤は厄除けの色。ういろうのような食感で私は大好きです」と尾﨑さん。
もちもちとした食感のういろう生地や、葛を用いた生地の上に、小豆の甘煮や蜜漬けをのせてかためた三角形の和菓子。お店によって多少の違いはありますが、どれも見た目がすっきりと涼しげな雰囲気で、上品な甘味が口に広がります。
「夏越しの祓えは、『水無月』を味わいながら、半年間を無事に過ごせたことに感謝します。この「感謝」が大事ですよね。ああしたい、こうしたい、と欲求はいろいろありますが、感謝という視点からものごとを見ると、違った世界が見えてきます。欲しがるばかりではなく、与えられたものにまず感謝。「ありがとう」と思うことで心にも余裕が生まれてくるような気がします」と尾﨑さん。
神事に参加して無病息災や日々の安寧を願い、美味しい和菓子をいただきながら、与えられたすべてのことに「感謝」をする…1年の折り返しにピッタリの節目となりそうです。
取材ライターのつぶやき
月末を迎える度に「もう元旦からこんなに経ってしまったの?」と驚いてばかり。夏越しの祓えの頃は、残り半分しかないという事実に、あれもこれもやっていないと焦るイメージしかありませんでしたが、尾﨑さんの「感謝の視点」という言葉を聞いて目から鱗。欲しがってばかりの自分から脱却すべく、平穏な気持ちで神社に足を運ぼうと思います。
次回は夏越しの祓えにちなんだ料理のレシピをご紹介します。どうぞお楽しみに。
今回のSpecialist いとよし 尾﨑 美香 さん

行事と楽しむ暮らしを提案する「いとよし」代表。
大学卒業後、花王(株)にてコピーライター・クリエイティブディレクターとして化粧品や日用品のブランディングやコミュニケーション戦略に携わる。退社後、日本文化の学び直しを求めた「室礼三千」で行事の魅力を再発見し、2018年「いとよし」を立ち上げる。ワークショップ主催、メディアでの情報発信、田んぼと暮らしをつなぐ企画など、行事や暦のある暮らしの提案を行なっている。著書に「季節の行事といまどきのしつらい手帖」(エクスナレッジ)。TBSやJ-WAVE、雑誌「天然生活」などメディアにも出演。
いとよしwebサイトhttps://ito-yoshi.com/

