食事の支度や洗濯、掃除、子育てや介護。生活のあらゆるシーンで、さまざまな音が発生します。しかしマンションという環境では、それらの生活音が周囲の住戸に伝わって、トラブルに発展してしまうことがあります。響きやすい音を知ってあらかじめ防音対策をしておけば、皆が快適に暮らせる環境に近づくかもしれません。
そこで、防音関連グッズの企画・販売を行っている防音専門ピアリビング代表の室水房子さんに「マンションの防音」について聞いてみました。
第1回目は「生活音が気になったら 窓と壁編」です。
外の音は、窓の隙間をふさいでみる
にぎやかな市街地や大きな道路の近くに住んでいると、外から話し声や車の走行音が聞こえる事があります。時には、緊急車両のサイレンなどが鳴り響いて、眠りを妨げられることもあるかもしれません。
外から聞こえる音が気になる時は、どう対処したら良いのでしょうか。
室水さん「まず、マンションで気になる生活音には空気を伝わってくる『空気音』と、壁や床など建物の構造が振動することで発生する『固体音』があります。話し声や車の走行音は空気音にあたるもの。鉄筋コンクリート造のマンションでは、壁よりもガラス窓から入ってくることが多いので、外からの音が気になったらまず隙間テープなどでサッシと壁の隙間を塞ぐことが大切です」
【空気音】
空気を伝わってくる音。空気の振動を遮断することで防ぐことができる。人の話し声やペットの鳴き声、音楽など。
【固体音】
床や壁が振動することによって伝わる音。振動を減らす工夫や、振動が伝わりにくくなる工夫が必要。足音やドアの開閉音など。
隙間テープやクッションテープなどで隙間を塞いでも音が気になる場合は、防音カーテンや厚手のカーテンを窓にかけるのがおすすめ。音が気になる時だけカーテンを閉め、それ以外の時間はレースカーテンのみを使えば採光を確保できるからです。

▲防音カーテン「コーズ」/ピアリビング
室水さん「カーテン選びのポイントは、吸音する素材と遮音する素材を両方使っているものを選ぶこと。厚みと重量があることも重要です。せっかくカーテンをかけても、窓とカーテンに隙間があると防音効果が薄くなるので、カーテンレールにかける時にはできるだけ横の部分まで塞ぎましょう。上部の隙間はカーテンボックスを取り付け、アジャスターでカーテンの丈を調整して上下方向への音を遮断するともっといいですよ」

▲独自の折り返し部分で隙間を塞ぐ「コーズプラス」/ピアリビング
工事現場などで使われる遮音シートをカーテン代わりに吊るしても、音が吸収されずに反響音が大きくなったり、周囲に隙間ができるため効果が薄くなったりしまうそうです。
防音パネルで窓を塞ぐ方法も
「近くに学校や公園があって音が気になる」「夜勤のため日中に静かな環境で休みたい」など、もっと窓の防音性を高めたい場合はどうすればいいでしょうか。
室水さん「分譲マンションの場合、窓のサッシが共有部と区分されていることが多く、二重窓や二重サッシに工事できない方も多いと思います。工事をせずに、とにかく外からの音を遮りたい場合は、窓枠のサイズに合わせた防音パネルを使う方法があります。防音パネルは窓枠に合わせて専門業者にオーダーすることもできますし、ホームセンターやインターネット通販で材料を揃えて自作することもできます」

▲「窓用ワンタッチ防音ボード」/ピアリビング
ホームセンターなどで販売されている吸音材と遮音シートを貼り合わせて、外側を内装用のクロスで包むと簡易的な防音パネルができるそうです。パネルを使う場合も、隙間を塞ぐようにきちんと寸法を合わせることがポイントです。
壁越しの音は、家具を移動してみる
隣家から壁越しに聞こえる音は、その多くが声や音楽など。部屋の家具を移動するだけでも、生活音が気にならなくなる場合があるそうです。
室水さん「隣の部屋からの音が気になる場合は、本棚やクローゼットを壁側に置いてみてはどうでしょうか。音楽や話し声といった空気を伝わってくる音を、布や紙が吸収してくれます。空気の層がたくさんある方がいいので、家具の背面に段ボールを入れておくのも手軽にできると思います。寝室で眠れないようであれば、ベッドの位置を変えて音源から遠ざける方がいいですね」

マンションでは隣戸と接する側に収納が置かれることも多いもの。特に背が高い家具は吸音効果が高いそうなので、試してみたいですね。
壁の防音は面全体で考える
家具の配置を変えても、隣の部屋からの音が気になる時には、どうすれば良いでしょう。
室水さん「壁越しの音はピンポイントではなく部屋全体に響くので、壁一面を吸音材と遮音材でカバーするのが良いですね。反対に、壁にスポンジ素材などの吸音材を貼るだけでは、音の対策としては十分とはいえません」
個人のDIYで壁一面を防音することは非常に難しいそうです。理由のひとつは、吸音材として使われるロックウールやグラスウールの扱いにくさ。チクチクとした繊維がむき出しになって危険な上に接着剤も付きにくいため、特に子どものいる家庭では難しそうです。遮音シートは1巻で20kgと重いため、知識がない状態で壁に付けるのはかなり難しいそうです。
市販のつっぱり棒やラブリコなどDIY用の部材で固定できる防音パネルも市販されています。用途に合わせて取り入れてみるのもいいですね。

▲「ワンタッチ防音壁」/ピアリビング
音楽やホワイトノイズを活用

静かに過ごしている時には気になっていた音が、BGMをかけたりテレビをつけたりするとほとんど聞こえなくなることがあります。
室水さん「カフェを例にとるとわかりやすいと思いますが、しんと静まり返っているよりも、落ち着いた音楽が流れている方が周囲の音が気にならず、話しやすいですよね。同じ考え方で、就寝時などちょっとした音が気になる時には、静かな音楽を流すのもいいと思います」
同じ周波数同士が打ち消し合う、音のマスキング効果を利用するのも手。
室水さん「ホワイトノイズといわれる音も、周囲の音を和らげる効果があるといわれています。アナログテレビ放送の砂嵐といわれる状態の音ですが、さまざまな周波数をまんべんなく含んでいて、マスキング効果があります」
取材ライターのつぶやき
お隣の物音よりも、自宅のトイレや浴室から出る音が気になっています。今回の取材では、防音カーテンや背の高い家具を置くアイデアに興味津々でした。できることから取り入れて、少しでも住みやすい家になるといいのですが。家族のいびきに悩まされているので、ホワイトノイズを発生させる商品もチェックしたいと思います!
今回のSpecialist
株式会社ピアリビング代表
室水房子(むろみずふさこ) さん

1993年創業当時から防音商品開発に取り組み、防音マット、防音カーテン、防音ボード等の防音商品を販売。かつて自身が音のトラブルに悩んだ経験から、生活する人の視点を重視し、DIY感覚で設置できる商品づくりやyoutubeなどを使ったわかりやすい情報発信を行っている。東京と福岡にショールーム開設。二級施工管理技士。
株式会社ピアリビング ホームページhttps://www.pialiving.com/

