【column】獣医師が教える人とペットの幸福論|“新しい家族”の迎え方

2025.10.29 | 健康・ペット

動物の習性や感情を理解することで、ペットとの暮らしはもっと豊かになります。そこで、獣医師で動物福祉に精通する「清美どうぶつ病院」院長の清美先生に、お互いが幸せに過ごすためのポイントを教えてもらいました。
初回は、これから子犬や子猫を迎えるための基礎知識をお届けします。飼育経験のある方、すでに飼っている方も、ぜひお読みください。目から鱗の情報が満載です!

病気予防に、まずは動物病院探しから

通院を生活の一部に位置づける

▲通院が習慣化すれば待合室でも落ち着いていられる(写真提供:清美どうぶつ病院)

動物病院は、ペットが病気になってから行く場所だと思っていませんか? 実は、そうともいえないのです。
体調が悪いときの動物は、些細な刺激にも敏感になり、痛みも増幅するため、知らない人に触られたくないのが本音だといいます。そのため、キャリーから出られなかったり、恐怖でかみついたりしてしまうことも。こうなると検査や治療ができないと、清美先生は言います。

▲猫ちゃんも、診察台の上でリラックス(写真提供:清美どうぶつ病院)

「ワクチン接種や治療だけが目的の通院では、動物たちにとって病院はイヤな場所になります。反対に、いつも病院で楽しい経験をしていれば、少なくとも大嫌いな場所にはならない。不調時も、元気なときとの比較ができ、診察台の上でもリラックスできるので、検査や治療もうまくいきます」。

飼い主の緊張はペットにも伝わるため、飼い主もスタッフと親しくなることが大切。ペットたちは、ごほうびをもらったり、体重を測ったり、楽しく過ごせればOKです。
「キャリーで移動できただけでもほめて、ポジティブな体験を積ませてください。それが、いざ病気になったときの救命につながります」と、清美先生の言葉にも力がこもります。

相性の合う動物病院を見つけるために

▲信頼関係が築ける獣医師をホームドクターに(写真提供:清美どうぶつ病院)

とはいえ、どこの動物病院でも、こうした “慣らし”に協力的なのでしょうか? 見極めのポイントとして、清美先生が挙げたのが、“事前の電話”です。

「事前に連絡を入れて、慣らし訓練に対応しているか、どれくらいの費用がかかるかなど確認してみるといいでしょう。
通ってみて『合わないな』と感じたなら、違う病院を探すのもアリ。ご自身にとって相談しやすい動物病院を味方につけてほしいと思います。SNSには口コミ情報もあふれていますが、あなたにフィットするかはわかりませんから、自分で確認するのが一番です」。

もう一つ、ポイントになるのが、他院との連携です。

「皮膚病治療に長けている先生やケガ治療がうまい先生など、動物病院にも個性があります。そのため、受診した病院で他院を紹介されることもありますが、それこそが信頼できる病院の証。ホームドクターを据えた上で、状況に応じて専門的な治療も受けられるように、連携体制があるかを尋ねてみてもいいですね」。

<POINT>
ペットを飼ったら、まず、何でも相談できる動物病院を探すこと。行く前に電話して、病院の様子を確認してみて。

ペットの“食”について

人の食品で死に至ることも

人の食べ物のなかには、動物にとって毒になるものがあり、最悪の場合、食べると死に至ります。まだ毒性がわかっていないものもあるので、危険性はどんな食品にも潜んでいると考えるべきでしょう。

「同じものを食べさせたい“親心”はよくわかりますが、飼っている魚がかわいいからと唐揚げをあげる飼い主さんはいませんよね。犬や猫も同じです。ペットは、人とは違う。そう認識することは、動物たちの命を尊重するということです」と、清美先生は指摘します。

<与えてはいけない代表的な食材>
・チョコレート ・アボカド ・ネギ類(玉ネギ、ニンニク、ニラ) ・ブドウ、レーズン ・アルコール ・キシリトール ・マカデミアナッツ ・脂肪分や油分の多い食品(マヨネーズ、生クリーム、アイスクリームなど)

<上記以外の重要事項>
※人用に味つけされた食品
※猫には、猫用以外の薬やサプリ(例:αリポ酸など)を与えない
※ニコチン、不凍のエチレングリコール、エッセンシャルオイル、ユリ、観葉植物などは中毒の危険あり

★ここにあるのは、あくまで代表例です。まだ毒性がわかっていないものもたくさんあるので、ペットの食事や周辺環境には十分注意を払ってください!

子猫のうちに食の幅を広げてあげて

犬に比べると、猫は嗜好性が分かれます。嗜好が決まってしまう生後8〜9週くらいまでに、いろいろなフードを経験させて、味覚の幅を広げてあげることが大切だといいます。

「ドライフードだけでなくウェットフードも、魚味だけでなくチキン味も与えて、食べられるフードの種類を増やしてほしいですね。その理由は、投薬治療が必要な場合、ウエットフードに混ぜて与えられるから。実際、ドライしか食べられない猫がとても多く、投薬や食事療法を提案したくても、食の好みの問題で、治療できないことも多いのです。

また、猫はあまり水を飲まないため、尿が濃すぎて尿路結石や腎臓病を引き起こすことがあります。その予防にも、水分を含んだウエットフードは好ましいですね」。

一方で、万が一の災害時を考えれば、ドライフードを食べられることも大切。食事の幅を広げるトレーニングができるのは小さいときだけなので、飼いはじめる前に押さえておきたい知識です。成猫になっても、ローテーションしながらバラエティのある食事を続けていきましょう。

ドライフードの管理法

ドライフードの冷蔵庫保管はNG。結露でカビの原因になります。容器に入れたいのなら、移し替えるのではなく、購入した袋のままで。エアコンのある部屋で保管し、封を開けたら空気を抜いて、最長でも1か月以内に食べ切ること。複数フードのブレンドは避け、小袋を使い切るのがおすすめです。半生タイプは添加物が多いので、控えたほうが無難でしょう。

<POINT>
人の食べ物は毒になることもあるので要注意! また子猫の食事には、ドライフードもウエットフードも取り入れて。

子犬期に欠かせない“抱っこ散歩”とは?

トレーニングで人も散歩も好きなワンちゃんに!

子犬を迎えたら、抱っこしてお散歩に連れて行ってあげましょう。抱っこ散歩の目的は、「怖くない」体験を増やしてあげること。そのために、最初は何でもないような場面でごほうびをあげると効果的だといいます。

「初めての状況に遭遇し、きょとんとしているときにごほうびをあげて、イヤな感覚につなげないことがポイント。初めて玄関から外に出て『ん?』と首をかしげているときに、ごほうび。パトカーのサイレンに『ん?』となっても、ごほうび。つまり、日常の刺激に対して『怖い』という感情を抱く前に、その刺激をよい体験に置き換えるのです。こうしたトレーニングを馴化(じゅんか)といいます」。

よい体験の積み重ねは、自宅でも重要だといいます。初めてインターホンがなったり、雷鳴が聞こえたり、状況がわからずに「ん?」となったときが、ごほうびチャンス。怖がったり、吠えたり、次の行動につながる前に、「これは大丈夫」ということを肌感覚として覚えさせ、この訓練を継続することが大切だそうです。

トレーニングを繰り返すうちに、散歩でも室内でも、日常の音に反応を示さなくなります。そうなったら、次のステップへ。その子にとって怖くない範囲を探りながら、初めての刺激や不思議そうな表情を見せたときにごほうびをあげて、「怖い」「イヤだ」という感情につなげないよう、がんばっていきましょう。

ごほうびは、必ずしも特別なおやつである必要はありません。1日の食事のなかから与えれば肥満対策にもなり、刺激レベルに対しても最適なごほうびになります。

抱っこ散歩でよくある失敗

人間界の刺激に慣れさせようと、いきなり車通りの多い道や長時間連れ出すのは、絶対にダメ。恐怖が先に立つとトラウマになり、一生、散歩できなくなる可能性があります。それほど、子犬期の体験は重要で、この時期を逃すと、あとで取り戻すことがとても難しくなります。

「だからこそ、うまくいっていないと感じたら、早くホームドクターに相談することが大切」と清美先生。
よいスタートを切って、その後の幸せな生活につなげていきましょう!

<子犬が怖がっているときのわかりやすいサイン>
・震えている
・しきりにキョロキョロする
・体が固まる
・ハアハアとした息づかいをする
・ごほうびのフードが食べられない など
<ごほうびをあげるコツ>
・ごほうびは、1日の食事のなかから用意し、普段のフードが食べられるくらいの刺激レベルから始めるのが理想。
・何度もあげることを考えて、1粒を小さく切っておくと便利
<POINT>
日常の刺激に対して「怖い」という感情を学習する前に、ごほうびでよい体験にすり替えることが、抱っこ散歩成功のカギ。

取材ライターのつぶやき

清美先生から教わる情報は、初めて知ることばかりでとにかく勉強になりました。ペットも、自分も幸せに暮らすために、しっかりマスターしたいと思います。

 

今回のSpecialist 道岡 清美(みちおか きよみ) さん

福岡県春日市にある「清美どうぶつ病院」院長。東京農工大学行動診療科研修医。動物福祉や動物行動学、漢方治療など、幅広い分野で研さんを重ねて、人と動物に寄り添った治療を行う。“心も体も健康で過ごせる飼い方”のセミナーも開催。人と動物のよりよい関係づくりに向け、精力的に活動している。


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