【column】獣医師が教える人とペットの幸福論|病気・ケガの予防

2025.11.12 | 健康・ペット

獣医師で動物福祉に精通する「清美どうぶつ病院」院長の清美先生に学ぶ「人とペットの幸福論」。第3回は、病気やケガの予防がテーマ。ペットたちに最適な環境づくりのポイントもお聞きしました。

不妊・去勢手術はしたほうがいい?

▲手術のことなど不安があればホームドクターに相談を(写真提供:清美どうぶつ病院)

手術に抵抗があり、「自然のままがいい」と言う飼い主さんもいますが、ペットとして飼った時点で自然ではありません。むしろ発情を放置することが、苦痛につながります。また、不妊・去勢手術で、ホルモン由来の病気リスクを圧倒的に下げられるのです。タイミングも重要で、発情期を迎える前の手術がもっとも効果的だと学術的に立証されています。
一方、全身麻酔による手術リスクやホルモンバランスの変化で、肥満リスクが上がるなどデメリットがあるのも事実。それでも、“する”“しない”を天秤にかければ、“する”に軍配が上がるといいます。

▲大切な“わが子”だからこそ生涯の健康を考えたい(写真提供:清美どうぶつ病院)

「犬・猫ともに不妊・去勢手術をしていないと、中高齢になって、女の子なら乳腺腫瘍や子宮蓄膿症などに、男の子なら前立腺肥大(前立腺膿瘍など)、肛門周囲腺腫、会陰ヘルニア、精巣腫瘍などになる確率がぐんと上がります。いずれも手術が必要な病気ですが、そのとき手術可能な状態であるとは限りません。特に年を重ねると、小型犬は心臓病を抱えるケースが多くなります。その他の内臓疾患なども考えられるため、麻酔リスクが高くなり、救命できないこともあり得ます」と清美先生は言います。生涯にわたる健康を考えれば、最善のタイミングで不妊・去勢手術を受けていたほうが安心だといえそうです。

ただ不妊・去勢手術を受けると太りやすくなるため、低カロリーの食事にするなどの工夫が必要になるそう。本シリーズvol.1でもご紹介したように、ホームドクターを決め、通院のたびに体重測定しておけば、体重の増減もすぐにわかり、必要なアドバイスも受けられます。大切な“わが子”の健康は、飼い主さんの手で守ってあげましょう。

<POINT>
発情前に不妊・去勢手術をすることで、将来の病気リスクを格段に抑えられると知っておこう。

ケガやトラブルを防ぐために

フローリングはケガのリスク大
ペットにとってフローリングの床は滑りやすく、膝や股関節を痛める原因になります。滑りにくく洗えるような素材を敷き、なるべく足に負担をかけないようにしてあげましょう。最近では滑らない床材もあるので、新築やリフォームを機に検討してみることもおすすめします。

誤飲誤食は命の危険も
誤飲誤食は、命の危機に直結するほどペットにとっては危険です。犬であれば、届かない高い場所に食品などを保管することで対策できますが、どこにでも行ける猫は、かなり注意が必要。置きっぱなしの天ぷら油をなめたり、生ごみを食べたりする可能性もあるため、必ず蓋つきの容器で管理しましょう。また、猫はレジ袋や梱包用のビニール紐など、シャリシャリしたものも好きで、清美先生の病院では、食品のついたラップを食べた子猫が手術になったケースも。そうしたものも気をつける必要があります。

安全のため、キッチンに入れないよう柵をしたり、扉つきの棚に片づけたりして、管理を徹底したほうがよいでしょう。1度でもキッチンで成功体験をすると、常に侵入を試みるようになってしまうので、最初の1回を許さないよう対策することが大切です。誤飲誤食があった場合は様子を見ずに、一刻も早く動物病院へ。

ペット用のスペースも十分確保して
子ども部屋と同じ感覚で、ペット用の部屋を用意するのもGOOD! 留守番時の誤飲誤食や狭さに対するストレスなど、さまざまなトラブル防止に役立ちます。特に多頭飼育であれば、それぞれのスペース確保がより重要です。

ペットに快適な環境づくりのポイント

<犬編>

●ペットシーツはワイドタイプを使用
小型犬でも、トイレトレーニングにはワイドタイプの使用をおすすめします。飼い主の外出時などで犬をサークルに入れる場合も、トイレにはワイドタイプのペットシーツを入れてあげましょう。

●余裕のあるサークルサイズを選ぼう
市販の犬用サークルにワイドタイプのペットシーツを敷いて寝床を置くと、それだけでスペースがいっぱいに。快適さを保つには、寝床とトイレ以外の余白も大切です。すごしたい場所の選択ができるよう、拡張できるサークルなどを使って十分な広さを用意してあげましょう。

●ジャンプは極力させないように
犬は、繰り返しジャンプすると椎間板ヘルニア、膝蓋骨脱臼、靱帯損傷などのリスクが高まります。ソファへのジャンプや2本足立ちになる姿勢を繰り返すことは、できれば控えたい習慣です。

<猫編>

●キャットウォークは掃除も必要
キャットウォークは、高い位置にあるのが理想。しかし、吐いたりして汚す可能性も考慮し、掃除ができるようにしておきましょう。

●高齢になっても高い場所へ登れるように
高齢になると関節炎を発症する子が多く、ジャンプをためらったり、階段を上らなくなったりすることがあります。そんなときは、足の負担軽減を考え、狭い歩幅でもアクセスできるように、トイレやキャットウォークの仕様も変更してあげましょう。

●「爪とぎ」にも好みがある
家具や壁で爪を研いでしまう場合、それと似た感触の爪とぎを用意してあげましょう。選ぶときのポイントは、「①方向②素材③場所」が好みのものかどうか。以下を参考に、選んでみてください。

① 方向
地面をガリガリする「水平方向」が好きか、壁やソファなど「垂直方向」が好きか
② 素材
ダンボールのような素材が好きな子、麻をまいたようなものやじゅうたん、ソファー生地を好む子、壁クロスのような質感がいい子など、猫によって好みがあります。
③ 場所
出入口から遠い場所や物音のしないところなど、落ち着けて、その子が好む場所に置いてあげましょう。

●爪の状態もチェック
猫種によって、爪とぎが下手な子もいます。また中高齢になると、体力の低下や手足の痛みで、爪とぎをしていても不十分になり、巻き爪になる子もいます。いままで手をさわらせてくれていた猫が、さわると攻撃する場合は、巻き爪で痛いということもあります。歩くときの爪音も気にかけて、飼い主さんがチェックしてあげてください。

●前足が十分伸ばせるトイレを
市販品は、ちょっと狭いかも。理想は、体長の1.5倍〜2倍程度のサイズ感。市販の猫用トイレにこだわる必要はなく、衣装ケースの引き出しなどで代用もできます。ただ、フード(屋根)つきや深さのあるタイプは臭いがこもりやすいため、イヤがる子もいます。様子を見ながら好みを探ってあげてください。

●トイレの数は猫の数プラス1
猫はとてもきれい好きなので、汚れたトイレを嫌います。そのため、一般的には猫の数プラス1のトイレが必要といわれますが、尿量が増える病気の子がいる場合は、その数では足りません。理想は、常にきれいなトイレが1つ以上あること。仮に、同居猫に通せんぼなどの意地悪をされても、使えるトイレがあるよう管理する必要があります。

●砂にも好みがある
トイレ砂にも猫それぞれで好みがあります。1週間交換しなくてもよいタイプもありますが、砂に臭いが残ってトイレを嫌がるようになるケースもあります。また、毎日掃除して排泄をチェックしたほうが、病気の早期発見につながります。
猫が用を足したら、そのつど掃除をして、尿の量や色から健康状態を把握しましょう。固まる砂の場合、かたまりの大きさや量をチェックし、総量が増えているようなら腎臓が弱っている可能性があります。かたまりが小さい場合は、膀胱炎や尿路閉塞なども疑います。

●置き場所も重要
洗濯機やテレビでうるさいところや落ち着かない場所はNG。ただし健康管理のため、人の目が届き、観察できる場所にしましょう。暗すぎる場所だと、犬も猫も見えづらくトイレに行きにくくなるので、気をつけて。

●上記を試しても失敗する場合は…
痛みがあってトイレをまたげなかったり、腎臓の病気でおしっこの回数が増えたり、また何らかのストレスが原因の可能性があります。早めにホームドクターに相談してみてください。

<POINT>
動物の立場に立ってペットの住環境を整えてあげれば、人も快適にすごせるようになると心得ておこう。

受診の目安

「いつもと違う様子があり、受診するべきかどうか迷ったら、ネット情報で対処する前に受診してほしい」と清美先生。いつでも気軽に相談できる。そんな関係が築ける獣医師をホームドクターにすることで、ペットの健康管理もうまくいきます。「ネットには間違った情報も多いけれど、よい情報もあります。だから、気になる情報があれば、ぜひ共有してほしいですね」。飼い主と獣医師との二人三脚で、動物も人間も幸せになれるよう、適正飼養を学んでいきましょう。

<POINT>
「こんなことで受診していいの?」と思っても、“こんなこと”かどうかは、診察してもらわないとわからない。だからこそ、気軽に相談できる獣医師をホームドクターにしよう。

取材ライターのつぶやき

環境を整えてペットのこころを満たせば、問題行動も減少し、私たちの住まいもきれいに保つことができます。動物たちに寄り添うことの重要性を深く感じる取材となりました。

今回のSpecialist 道岡 清美(みちおか きよみ) さん

福岡県春日市にある「清美どうぶつ病院」院長。東京農工大学行動診療科研修医。動物福祉や動物行動学、漢方治療など、幅広い分野で研さんを重ねて、人と動物に寄り添った治療を行う。“心も体も健康で過ごせる飼い方”のセミナーも開催。人と動物のよりよい関係づくりに向け、精力的に活動している。


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