獣医師で動物福祉に精通する「清美どうぶつ病院」院長の清美先生に学ぶ「人とペットの幸福論」。最終回では、よくある飼育のお悩みにお答えいただきました。
ペットのお悩みQ&A〈犬編〉
Q トレーニングは、いつからはじめるべきですか?
▲トレーニングすれば歯磨きも上手に!(写真提供:清美どうぶつ病院)
A 生後2〜3か月の「社会化期」にしかできないことがたくさんあるため、健康に配慮し、できるだけ早いタイミングからスタートしましょう。犬をあずけるのではなく、飼い主さんと一緒にトレーニングできる教室を選んでください。散歩の仕方や歯の磨き方、ブラッシングの仕方など、「飼い主さんにとって有益な情報を得るために通う」ととらえていただきたいと思います。
予防的な取り組みをせず、問題行動が発生してから頑張って取り組んでみても、お金も時間もかかり、さまざまな課題が残る危険性もはらみます。こうしたリスクを避けるためにも、早めのスタートが肝心です。
Q 犬が飼い主を下に見ないようにするには、どうすればよいですか?

A かつて飼い主と犬は主従関係にあるとされてきましたが、近年の研究でそれは明確に否定されています。トレーニングをおすすめする理由は、飼い主に服従させるためではなく、身体のチェックや日常のケア、投薬などをしやすくする意味合いが大きいです。飼い主は保護者のような目線で、犬に接するようにしてあげてください。
Q 留守番させると寂しがって吠えます。もう1頭飼って、寂しがらないようにしようと思いますが、どうでしょうか?

A 飼い主を求めて吠える犬に、別の犬を与えても問題は解決しません。むしろ、元の犬がしていなかった行動を一緒にするようになるなど、新たな問題を引き起こすことも多いです。いままで入らなかった場所に入り、盗み食いや物を壊してしまったり、いままで以上に鳴き声が大きくなったり、犬同士のケンカなどのトラブルが発生することがあります。
すでに問題行動を抱えている場合は、悪化や難治化する可能性もあるため、もう1頭飼う前に、行動診療の受診をおすすめします。まずはホームドクターに相談してみてください。
Q 動物病院には、どのくらいのサイクルで行くべきでしょうか?
A 私は飼い主さんに「散歩ついでに、毎日でも寄っていいですよ」と伝えています。目的がないときの来院で、動物たちに「何もされない体験」や「楽しい体験」を繰り返し経験してほしいのです。そうすれば、「動物病院に行ったら、毎回イヤなことが起きる」という学習をさせずに済みます。
たとえば、病院でフードなどを購入するようにしておくと、定期的に通いやすいかもしれませんね。普段から顔を合わせることで、季節や年齢に応じたアドバイスをもらうこともできます。慣れる練習のためにも、1か月に1回以上、できればもう少しマメに来てほしいのですが、病院によって考え方が異なるので、ホームドクターに相談してみてください。
ペットのお悩みQ&A〈猫編〉
Q 猫もシャンプーしたほうがよいのでしょうか?

A シャンプーの必要はありません。ただし長毛種は、ブラッシングが必要。子猫のうちから慣らしておくことが大切です。ドッグトレーナーでも、猫のお世話を教えてくれるところがあるので、利用してみてもいいでしょう。
猫も、犬と同じように歯周病になりやすいため、歯磨きも覚えられるとベスト。お口を開けられるようになれば、投薬トレーニングにつなげやすく、将来投薬治療が必要になったときでも対応でき、治療の選択肢が広がります。
Q 多頭飼育です。猫の数だけ水は必要ですか?

A 本来は、猫別に管理することが望ましいのですが、同空間で多頭飼育している場合は難しいので、共用せざるを得ないと思います。ただし、腎臓病や尿路結石の予防には、水分をしっかり摂らせたいので、飲ませる工夫をしてほしいですね。
多くのご家庭で水とご飯を同じ場所に置いていますが、よほどのどが渇かない限り、猫はわざわざ水を飲みに行きません。そこで、“ついで”に飲める場所に水を置いてほしい。たとえば、寝床から窓まで、寝床からトイレまで、といった具合に猫の動きを観察して、導線上にそれぞれ置いてみるなど。そしてトイレは、できれば猫の数以上用意してほしいと思います(vol.3「病気・ケガの予防」参照)。
Q おしっこがちゃんと出ているのか、心配です。

A 膀胱炎や尿路閉塞の場合、尿が少量ずつのことや出づらい場合があります。一部もしくは完全に詰まると、急性腎障害で突然亡くなることがあります。尿が出ていても見た目ではわかりにくいので、いつもと様子が違う場合は、速やかに受診してください。
Q 尿の回数だけでなく、量も観察したほうが、よいですか?
A 尿の回数だけでなく、量を観察するのはとてもよいことです。尿量や飲水量の増加は、病気のサインの可能性も。腎臓病になると、尿の濃縮能力が下がって、必要な水分まで排出されるようになり、脱水が起きます。そのため飲水量が増えるのですが、飲んでも補うことができずに、慢性的な脱水状態に陥るのです。
尿量を把握するには、固まるタイプのトイレ砂の場合、50ccの水で砂のかたまりがどのくらいの重さなるのか、事前に確認しておくといいでしょう。その重さをもとに、おしっこの状態を記録しておけば、異変に気づきやすくなり、健康管理もしやすくなります。残った飲み水の量も併せて確認しておくと、よいですね。
Q 猫にトレーニングは必要ですか?

A キャリーバッグに入るトレーニングは、子猫のうちからぜひやってほしいと思います。これができていれば、体調不良やワクチンのときも動物病院へ連れて行きやすくなります。ポイントは、苦手意識がつかないよう配慮しながら、少しずつ、確実にステップを踏んでいくこと。狭いところが好きな子であれば、キャリーバッグを寝床にしてもいいですね。バッグのなかが安心できる場所になれば、地震などで驚いたときもバッグに入ってくれるので、そのまま一緒に避難することができます。
トレーニングの方法は、以下を参考にされてください。
① その子が好きなもの(フードやタオル)などをバッグの入口付近に置き、猫の状態を見ながらバッグの奥に少しずつ移動させて、猫が自らバッグに入るように誘導する。
② 猫が入ったら、バッグの隙間から、フードを中に落としてあげる。
③ ②までのステップを繰り返し、バッグ内にいる時間が長くなってきたら、軽く閉じてみる。
④ いつでも出られる状態のまま、バッグの隙間からフードを与え、落ち着いて食べられるようになるまで様子を見る。
⑤ ④が問題なくできるようになったら、少しだけ扉を閉める。完全に扉を閉められるようになるまで、焦らず、少しずつ、猫の様子を確認しながら進める。
⑥ ⑤までのステップが問題なくできるようになったら、扉にロックをかけ、最初のうちはすぐに開けてあげる。
⑦ 長時間、扉をロックしたままでも平気になったら、バッグを持ち上げておろす。それもできるようになったら、移動時の揺れにも慣れることができるよう、トレーニングを進めていく。
Q 長く不在にするときは、どこに猫をあずけるのがいいですか?

A 猫は場所が変わることを嫌うので、訪問してお世話をしてもらう「キャットシッターサービス」を利用してみてもいいでしょう。サービスを利用する前に、必ずシッターさんと猫の顔合わせを行って、ある程度慣らしておいてほしいと思います。
※犬を世話するドッグシッターサービスもあります。犬の場合は、ペットホテルでもいいでしょう。動物愛護法の改正により環境改善が進んでいるので、安心感もあります。あずける場合は、ケージに入れて管理するサービスが多いので、こうしたトレーニングも必要です。
<POINT>
困りごとがあれば、ホームドクターや実務経験豊富なトレーナーなど、外部の力を借りよう。バックナンバーにも、解決のヒントがあるので、ぜひ参考にしてください。
清美先生からのメッセージ
どの飼い主さんも、「この子と幸せに暮らしたい」という願いをもってペットを迎えていると思います。その気持ちは、ペットとの時間をすごすうえで柱となるもの。もしペットのことで悩むことがあったら、その初心を思い返してほしいですね。
だから、「こうあるべき」という固定概念にしばられて、しつけにこだわる必要はありません。大切なのは、動物の習性を尊重し、お互いがラクに楽しく暮らせる方法を見つけること。私たち人間が動物のことを学び、しっかり観察し、理解することで、解決できることもたくさんあります。
そして、病気だけではなく、行動も含めた予防を意識することで、健康面や安全面での管理もしやすくなる。それはイコール、幸せな時間が長く続くことを意味します。これまでお伝えしてきた私からのアドバイスが、あなたとペットとの絆を深めるものになりますように。より多くの飼い主さんとペットが幸せであることを祈っています。
取材ライターのつぶやき
動物の行動研究が進み、飼育の常識は更新されています。飼うからには動物の習性を学び、その心を理解したいと強く思いました。
今回のSpecialist 道岡 清美(みちおか きよみ) さん

福岡県春日市にある「清美どうぶつ病院」院長。東京農工大学行動診療科研修医。動物福祉や動物行動学、漢方治療など、幅広い分野で研さんを重ねて、人と動物に寄り添った治療を行う。“心も体も健康で過ごせる飼い方”のセミナーも開催。人と動物のよりよい関係づくりに向け、精力的に活動している。

